「犬界よ正しく伸びよ・犬界時事檢討の集ひ」より

 

出席者

帝国軍用犬協会理事 有坂光威騎兵大尉

帝国軍用犬協会副会長 坂本健吉騎兵少将(予備役)

帝国軍用犬協会理事 永田秀吉

エアデール協会理事長 中元銀弘

日本犬保存会理事 平岩米吉

主催 白木正光

 

【分布状態の調査】
白木
又地方々々に犬のブロツクを作ることも必要と思ひますが、そのブロツクを積極的に研究して、足りないところへは持つて行くやうにしたらどういふものでせう。
帝犬あたりでも支部の人々と協力して、分布を厚薄なく全國的にしたら。
有坂
至極尤もな話で、或る地方ではだぶついてゐるが、ある治方にはシエパードが一頭もゐない。
白木
一つ研究部でそれらのことを調べ、有坂さん、どうです、地方を廻つて歩いて、註文をとつて來られたら―。
有坂
叱られてしまふ(笑聲)
白木
コンミツシヨンをとらないのだからいゝでせう。如何なる犬がその地方に必要か、見るのですね。
有坂
それはよい。
永田
まづ地方に一、二の熱心家を見出すことで、第一に基礎を作つて來る―。
坂本
賣名のための熱心家がゐてね。
永田
目的は賣名でも熱心家を基礎にすれば、効果は幾分上ります。とにかく國家が犬に關心を持つて來たのは、犬族發展の絶好なチヤンスです。
かういふ譯で、例へば過日の陸軍省の實演にしても、ああいふ催しが今後ドシ〃やつたらばと思ふ。
ところで、極端な話ではありますが、此處で考へてみねばならぬことは、今後いつ國家が考へを變へて、軍用犬は一とまづ打ち切らうと秋風を立てるかも知れない。
この秋風を立てられないやうにするには、如何なる方法手段の庇護のもとにこれを未然に防いだらよいか、それを考慮し、實行に移す用意が必要ではないかと思ひます。
白木
大切なことです。
永田
それを具體的に實際方面に移せば、今なら効果が上ると思ふのです。
 
考えてみれば軍犬報国運動は脆弱なものであり、陸軍省の意向次第で廃止されていたかもしれません。
実際、関東軍は軍犬育成所の廃止を検討していましたし(満州の冬季演習でハイテク機器が次々と凍結、関東軍軍犬育成所の伝令犬たちの活躍で通信網をゐ維持できたことから存続決定)、帝国軍用犬協会側の危機感を知る上で興味深い記録です。