いつぞや取り上げた大正時代のパグのお話。

あの飼主だった益田太郎冠者ですが、パグのほかにグレートデーンやコリーなども飼っていたそうです。さすがお金持ち。

大正2年の欧州旅行でパグとプードルを持ち帰ったのが女優の森律子(益田作品にも出演)だったりと、ナカナカ興味深い記録をどうぞ。

 

 

扨、猛烈な勢で發展して來た犬熱は、近ごろ縉紳(しんし)向の道樂として餘ほどの領域を占めて來た。

新種の名犬を輸入する點に於て愛犬家中に覇を唱へて居る益田太郎氏今春英國から猛獸狩に使ふグレドデン種の牡牝を輸入し、日本に始て來た名犬として愛犬界の垂涎の的となつて居る外、同家のプードル、パツグの兩種は森律子(※女優。益田太郎冠者の演劇に出演)が洋行中に手に入れて來たのを娶して、パツグは既に子を産み夫婦者のコリー胤も近頃四郎の子を産んだ。

又昨年同家から陛下に献上したブルテリアの兄弟カイロー君(二さい)は先頃博覧會に出品されて居たが、其當時に隣合せの犬舎に居る自分より三倍もある土佐産の猛犬と嚙合つて敵手を辟易させ、愛犬界の大評判となつたので、主人公の冠者氏は眼を細くして大得意である。

 

『獵犬(大正3年)』より