ワイヤーヘアードフォックステリアやボルゾイを飼育していました。

 

帝國ノ犬達-ラッキーストライク 

 

最も親しき友が、我等を見棄て、最も辛辣なる敵となる事がある。

最も優しい保護を加へて育てたる子供等が、忘恩な行を爲す事もあらう。

信頼され、最も身近にある者達が、裏切者と變じる事もあらう。

我等は突然に財産を奪はれる事もあらう。

災難やら、種々な原因で名聲を失ふ事もあらう。

我等を賞賛し、尊敬する人達が、最初に我等に向つて石を投ぐる者達であるかも知れないのである。

 

人類が信頼するに足る、常に我等を見棄てず、忘恩的であることなく、決して裏切者と變ぜざる、非利己的な友、それが犬なのである。

犬は我等が、金持であると貧乏であると、將又、健康であると病弱であるとを問はず、常に誠實なのである。

彼は主人の身近くゐる爲には冷き濕地にさへ眠る。

彼等に與ふべき食物の無い時ですら、優しげに我等を見るのだ。

我等が世の冷酷な行路に依り受くる處の傷を、彼は舐め癒やして呉れる。

主人の住ひが宮殿であらうと、茅屋であらうと、その住ひを守るのである。

 

我等が財産や名聲を失ふとしても、我等に對する犬の愛は常に變らないのである。

不幸にして我等が家庭を追はれ浮浪人として世間に出るを餘儀なくされるとしても、犬は共に連立つ事以外の特權を要求はしない。

然して、終に我等が死ねる最後の場面が來るとしても、犬は失意を抱いて我等の墓を見守つてゐるであらう。

故に、諸君の犬を大切にし、最上の友として遇せられたいのである。

 

『最上の友は諸君の愛犬だ(昭和8年)』より