戦前の甲府ではさまざまな犬が飼われていました。

太宰治の『畜犬談』にも、愛犬ポチ、「赤いムク犬」、「おそろしく大きい赤毛の犬」、「小牛のようなシェパアド」 といった甲府の犬たちが登場しています。

その甲府において、日本犬保護のため結成されたのが甲斐犬愛護会と純日本犬山梨保存会。両者の関係性はよく分かりませんが、山梨県庁の指導下云々などと不穏な表現が散見されます。
 

甲府の甲斐犬展覧會 四月三日

甲斐犬愛護會主催の第五回展は甲府市縣廳前廣場に開催されたが、出陳犬は虎毛の所謂甲斐犬のみ百餘頭も集つて、實に壮觀であつた。正面の舊城址の櫻は滿開、市中花見の遊覧會で賑ひ、觀衆多く非常に賑つた。

審査は鏑木博士、小松眞一、京都の里田原三の三氏。

 

文部省天然記念物保存指定メタル授賞犬

マル(赤虎牡) 金丸康三

佐智(同牡) 西山基宣

勝(黑虎牡) 内藤圓也

千種(同牡) 鹽野澄雄

ポチ(同牝) 河野名 

 

推奬犬

ハチ(黑虎牡) 鹽田剛

チコ(同牡) 槌屋誉

太郎(同牡) 清水正幸

劍(同牡) 寺田七勇

カチ(同牝) 榛原義重

キチ(同牝) 森澤民平

力(同牡) 野中喜一

龍(同同) 島田喜之助

エス(赤虎同) 櫻田彦蔵

ダン(黑虎同) 野口二郎

獅狼(同同) 矢崎茂三郎

那智(赤虎同) 井上哲

喜智(黑虎同) 西村重太郎

黑(黑虎同) 坂口寅作

トラ(同同) 小宮山盛次

黑鷲(同同) 伊東眞

甲斐(赤虎牝) 進藤宗武

優美(黑虎同) 菊島芳亮

メリー(中虎同) 齋藤文男

ジヨン(赤虎同) 佐藤誉

 

未成犬優良賞

黑(黑虎毛) 玄間慶三

太刀(牡) 矢崎茂三郎

チイ(赤虎牝) 天野晃

ケン(同牡) 小泉光市

富士(黑虎牡) 小野與作

クマ(黑虎牡) 深澤眞造

ムツ(牝同) 河西元教

天狼(同牡) 興石和儀

チビ(中虎牝) 馬場武

チビ(赤虎牡) 北畑啓太郎

雪(同牝) 内藤俊一

鐡(黑虎同)興石和儀

タケル(中虎牡) 鈴木清造

太郎(黑虎牝) 古屋孝平

クマ(赤虎同) 秋山眞周

 

 

こちらが純日本犬山梨保存会。山梨県において甲斐犬以外の登録活動をおこなっていました。

 

甲府の日本犬展 四月三日

純日本犬山梨保存會主催の日本犬展は甲斐犬愛護會と日を同じくして催されたが、この方は虎毛を除く日本犬全部で、縣廳の指導下に兩會の統制が巧みに行はれ、對立的のところの少しも見られないのは氣持ちよかつた。

この會にも百餘頭の日本犬が出陳され、兩會併せて實に二百餘頭。同地方の日本犬熱の高いことを如實に語つてゐた。

審査は鏑木博士、中田峻、神田廣義、小泉照次郎の四氏。入賞は次の通り。

 

中型牡

ゴマ號 松木榮一

福號 平間暁一

未號 山田權一

ハチ號 穂坂武男

チヒ號 堀内大吉

 

中型牝

番號 樋口權之助

マル號 新海榮治

朝露號 中村道蔵

アカ號 一之瀬一義

 

天然記念物指定柴犬

タイ號 深澤兵市

電氣號 山田權一

力號 長田辯三

田鶴號 青木辰彦

コマ號 千野清吉

吾妻號 高野豊造

駒號 岩田恒之

テツ號 雨宮竹松

ハチ號 阿部直吉

チビ號 穂坂セキ

ケン號 數野富蔵

 

未成犬

慶號 川本磯男

勇號 大村英智

トラ號 一之瀬一義

吉號 齋藤四郎

サクラ 雨宮平次

不二 鹽野澄雄 

勝 山下正昭