デンマーク駐日領事愛犬盗難事件・明治40年

横濱市駐剳（ちゅうさつ）丁抹（デンマーク）領事ワーミン氏は、去月十九日愛犬を伴ひ相州逗子に旅行したる際、或外人の爲め愛犬を奪はれ、横須賀發新橋直通の汽車に積込まれたるより大に驚き、直様随從の雇人安西義三郎をして同車を追尾せしめ、大船驛に到着するや安西は次第を停車場警戒の巡査に訴へたれば、巡査は二等車中に婦人と共に乗り込み居たる外人を取調んとしたるに、件の外人は車窓より犬を返すと紙片に認めて差出し、犬は同驛にて下車せしめ、驛長の手より領事の手に返へされるが、先の外人はネルケーと名乗りし儘發車したれば、何處の居住者なるやも判然せざりしが、多分逗子邊に別荘を構へ居る外人なるべしと。

「丁抹領事の愛犬」より