ヅウベルグ・ピンセルとも云ひ、レ・ピンセルとも云ふとか、兎に角我國で此犬種を飼育して居られるのは、著者の知つて居る範圍では、大阪飛田の北村繁治氏と、鎌倉長谷の三橋氏とで、この兩家のはブラツク・アンド・タンであり、其他には京都で被毛の色が金茶である爲めかキンチヤ・ピンセルと呼んで居られるのが居る筈と記憶して居る位のものである。
お座敷犬に特別の關心を持つて居る我國に於ては、此犬種は今少し愛養されて然るべきであると思ふに、案外此犬種は一般に知られても居ず、况んや之を飼養して居る向は、筆者寡聞にして前記の三者の外は知らない。
随つて昭和八年度に此犬種の生産には相當に力を盡されたには相違なからうが、別段の進出はしなかつたし、本年も之と謂ふ程のこともなからうとさへ思はれるが、幸に北村氏は特に此犬種に興味を持つて居られるやうであるが、本年は是非何分の進出を見せて貰ひたいものである。
 

淺黄頭巾『昭和八年の犬界を顧みる』より