逓信大臣で小泉純一郎元首相の祖父。

ドーベルマンのアムール號などを飼っていた愛犬家でもありました。

 

 

 

 

小泉又次郎さんと云へば平民大臣として一世を唸らせた方であることは云はずもがな―、その小泉さんがお宅の愛犬が生んだ仔犬を朝鮮の友人に贈るために、一生懸命訓練して居られたと思召せ。

或日小泉さんのお留守中に訪問せられた中野正剛さん―小泉さんと同じ内閣に政務次官をして居られた方であることは是亦云ふだけ野暮。その中野さんが、小泉さんの玄關子に向つて「若し先生が叱られたら吾輩が何とでもお詫をするから……」と丹精を凝らして訓練中の仔犬をせつせと連れて歸つて仕舞はれた。

其あとへ歸つて來られた小泉さん、驚かれまいことか、怒られまいことか。直に車を飛ばして、かん〃になつて中野さんの許へ捻じ込んで行かれると、外の事ではとても下らない中野さんのおつむりも犬の爲には苦もなく下つて、ぴたりと兩手をついての懇願に及ばれると、そこはそれ物事に角張らない平民大臣であつた小泉さん、忽ち霰のやうな涙をぼろぼろ滾して、「いゝさ〃、百匹でも千匹でも氣の向いたほど持つていき給へ」と大きく出られ、そして二人手を取り合つてニツコリ。

實に朗らかな犬の出入りであつたとの噂。

所で當の仔犬はと云ふと、新舊の主人達の氣持を知つてか知らずか、犬舎の中から兩方のお顔を等分に眺めて澄した顔で収まつて居たとか。

 

『親分同士の犬出入り』より 昭和9年

 

こちらが中野正剛東方會總裁。因みにこのグレートデーン、小泉さん宅から盗んだ仔犬ではありません。