生年月日 不明
犬種 シェパード
性別 牡
地域 京都府
飼主 日野七蔵氏
大江美智子一座の公演に出演した俳優犬。
山内義三氏作、大江美智子主演にて京都南座八月興行、東京松竹座の九月興行に上演され、両都の大衆に軍犬の有能性と必要を充分に認識させ、滿都の大喝采を博した。
『吼えろ軍犬』の内容については、以前投稿した記事をどうぞ。
『吼へろ軍犬』の一場面より、敵に捕らわれた山村大佐（松浪義雄）を救う軍犬二十號（エレックス）と令嬢邦子（初代・大江美智子） 。
昭和12年
幕が開くとエレツクスが邦子の靴を喰へて這入つて來る。見物のどよめきが早くもきかれる。續いて洋装の可憐な令嬢邦子が現はれる。細顔長身の大江美智子の洋装姿は剣戟女優より却つてこの方が相應しい位にぴつたりよく似合つてゐる。こゝで一しきり宮田（山口三津雄）と邦子とで犬の訓練が見せられる。
見物のそこかしこで「あれが軍用犬よ」とか「まあ犬でも感心なものね」などゝ頻りにさゝやかれる。殊にお掃除のお手傳ひをして、水道からバケツに水を汲んで咥へて來る動作など見物はすつかり感心して見とれてゐる。
舞臺に登されたのは京都南座の八月興行と東京淺草松竹座の九月興行とであるが、勿論今後各地に公演されるであらう。
此脚本は主演犬エレツクスの持主日野氏がエレツクスに訓練を施して居る實際を目撃してヒントを得て書き下したものであるとは、作者の言葉である。
犬が舞臺に使はれたことは是迄にも度々あつたが、今度の大江嬢とエレツクスほど意氣の合つたのは殆ど見受けなかつた。犬を主役にして大江嬢が脇役の位置に立つたのも巧妙な演出振であつた。
同じく第一景の大江美智子嬢の訓練振。
大江嬢は語る―。
南座の八月興行は十八日初日と云ふのにエレツクスの持主の日野氏が十七日に召集令状を受けられたので、一日丈の舞臺稽古で後事を高田さんと私に託して出征せられたので、座員一同は氏の武運長久を祈ると共にエレツクに依り氏の日頃の苦心を發揮させたいと懸命になつた譯ですが、最初は主人が居なくなつた爲めか、元氣も出ねば意も合はず、可なりハラ〃させられましたが、其内に私を第二の主人と思ひ込んだのでせう。
此頃では勇んで舞臺に活躍し、持場を克く心得て居て相手が少しでも遅いと催促するやうな素振さへするのです云々。
『間諜北支の女豹・軍犬活躍 吼へろ！！！軍犬』より 昭和12年
南座打上後の記念撮影（向つて左より南座の高田四一氏、エレツク、京都使役犬訓練學校木村榮三郎氏、西川甚三郎氏、クノー、大江嬢等）。
ちなみに、エレックスと一緒に写っているクノーはシュナウザーです。
昭和9年の広告より
飼主の日野氏は出征し、大江美智子も2年後に病死したためエレックスのその後については不明。他に見つけたのは、国防献金に利用された記録くらいでした。
國防献金のため去る八月十五日、恰も南座に開演中の大江美智子一座「吼へろ軍犬」に當地會員日野七蔵氏エレックス號が出演するので、此の機會を利用し國防献金観劇會を開催する事になり、京都聯隊區間内在郷軍人會、軍友會、國防婦人會の後援の下に實施した。
後援團體の大なる盡力に依り、豫期以上の成績を得、決算の結果純益二〇〇圓を九月四日國防献金として第十六師團司令部に支部長以下幹部出頭献金した。
師團係員も其の厚意に大に感謝した。
其他、京都支部管下の軍用犬のための献金を拾へば左の通り。
1．京都市東山線古門前上る上田潔氏は、軍用犬のためにと金三十圓を献金した。
2．京都市伏見區深草正覺寺町八ノ一平野みね氏は、金十圓を第十六師團の軍用犬にと献金した。
帝國軍用犬協會 昭和12年