我が国において、ラフコリーの愛好団体は早期から設立されました。特に「日本コリークラブ」の名称は戦前から現代に至るまで三つの別団体が受け継いでおります。

今回御紹介するのは二代目の日本コリー倶楽部(昭和9年設立)。西日本の雄であった鹿兒島コリー倶楽部を統合するなど日本コリー界の最大勢力へ成長した同団体も、続く戦時体制下で活動が停滞。そのまま消滅してしまいました。

 

 

本年夏コリー倶楽部が日本で初めてのコリー観賞會を東京で催された。観賞會の目的はコリーと云ふ犬。コリーが如何に美格的で高尚の犬であるかを大衆に向つて披露したいのと犬を飼ふならコリーの様な特美性の所有犬を飼はせたいと云ふ宣傳も含まれてゐたかの様に思はれた。出品者の多數は愛犬家の集合で、他の合評會などで屢々見る様な賣名的廣告的の醜くしい仕口は毛程もなく、只々各自其愛犬をクラブの請めにより仕方なしに出品した様に見受けたものが多かつた。

それは犬の附添として主人、夫人、お嬢さん、令息等の多かつたことにより想像された。お嬢さん等が暑がつてフー〃してゐる愛犬に遠方から水を持つて來て與へるやら、木蔭に引つ張つて行くやら、愛犬家として誠に美しい有様でありました。

 

帝國ノ犬達-コリー展

 

此観賞會により、コリー飼養家の受けた刺戟そのものは果して何であつたかは、各自に異なつてゐませうが、要するに其第一印象として自分の犬が他より見劣りのした時の心持でせう。此次ぎにはより以上優良物を出したいといふ心持ちで、その心持ちがつまり會の目的である。

第一回、而かも急に無理をして集めた關係が原因してゐたのかも知れないが、優良犬の少なかつた事は遺憾であつた。もし此中から英國或は米國邊りのコリー観賞會へ出品して恥かしくないものが有るかどうかは疑問である。

其點に至つては其前日に催されたセフアド観賞會の方がずつと優物が多かつた様に聞いた。コリー観賞會に出品したものゝ系統は英、米、豪三ヶ國であつた。英可なり、米可なり、豪又可なり。其希望する所は即ち優良なるコリーである。此會が永く續くと共に何れの國系に属するものが最期の勝利者となるか、今から刮目して待つのである。観賞會開會中、外國婦人(※ミルドレッド・トイスラー氏のことでしょう)が偉大なる赤いコリーを場内に引き込むだ時、出品者一同の心持はどんなであつたかをも回想されたい。

米山全公『コリー観賞會を回顧して』より

 

 

五月二十日

日本コリー倶楽部が創立されて僅かの日數しか経たぬのにもう第一回の展覧會を開くといふ。然かも三越の屋上でとは少しスピードが最初からあり過ぎると思はれた。

コリーといふ字を見た丈けでは何が何だか解らないのみならず、コリー犬と言つてもよく呑み込めない人が未だ〃多數あるその中に於てだ。

勿論大衆的不衍の程度では到底シエパードの比ではない筈だ。前日は當倶楽部主催の下に他犬種の名犬展覧會があつたそうだ。三越の屋上といふいゝコンデイシヨンの爲めばかりでなく、頗る付きの盛大な歓迎を受けたとのことだ。

で、きのふの鼻イキに刺戟されてこのコリー展覧會を参観に來た。日本コリー倶楽部ナンテ名はさも立派だが、展覧會といつても高かゞ數頭だらう。こんな氣持ちで來たゝめか、全く驚異の目を瞠らざるを得なかつた。屋上の會場は午前九時といふに目まぐるしいばかりの人波で、それを一周して犬舎四棟が整然と並んでゐる。テント張りは事務所にあてられ、由井理事長は破顔一杯口髭まで躍らしてさも愉快そうに悦に入つてゐる。他の役員もそれ〃擔當のマークを付けて諸般の準備や應待に忙殺されてゐる。大コリー倶楽部發展の瑞祥は正にこの状況が物語つてゐる。

久邇宮殿下(帝国軍用犬協会名誉総裁)御貸下の特別犬舎を始め、筑波侯爵家(日本シェパード犬協会会長)の二頭、大浦會長以下殆んど會員の持ち犬で五十頭餘といふ素晴しさである。犬舎からあの長い優美な顔を出して押寄せる観衆をチヤームしてゐる様は犬といふ観を離れて只見守る人々をして陶然たらしめてゐる。これに案外キヤン〃吠えない處に氣品を添へるものがあらう。

毛色はトライカラーが一番多くセーブルホワイトが十數頭、岩崎輝彌氏出陳のブルーメールに到つては會員中にも珍らしい目を向けたことであらう。一寸感じたことは、初めてコリー種犬を知る人の爲めに大體の概念丈けでも掲げてその性能を知らしめてはどうかと思つた。

午後になると一段と雑沓の度を深め、殆んど犬をよく見得ず歸つた人も尠くなかつた。

 

帝國ノ犬達-コリー行進

 

かくて午後三時半三越の屋上を降りた大群はこれより大行列を作つて市内行進を始めるといふ触れ込みだ。

役員は「日本コリー倶楽部」と大書した肩章を掛けて堂々出發する。

宮家の名犬を第一先頭に五十餘頭はそれ〃飼ひ主に付き添はれて四ツ足揃へて堂々と帝都街頭へとデモは始まる。

交通巡査が特に警護の任に當られたことなど有難いことである。物見高い都人士を尻目にかけてコリー君は揚々たるものだ。日曜の都大路はさすがに好奇をそゝられたに違ひない。

午後五時日比谷公園廣場に到着して記念撮影をして散會したが、その際由井理事長の挨拶に兼ねた講演はクラブ将來の抱負を物語る有意義なものだつた。

飯田精一『コリー展覧會を観る』より