・畜犬票の盗難豫防
次に犬は良く畜犬票を落したり、盗まれたりする事がありますが、畜犬票は盗犬を目的とした者に盗まれる丈けでなく、安産のお守りになると言ふ様な迷信から、屢々盗まれる事があります。これを盗まれない方法には細い銅の針金で二重にも三重にも巻いて置くと、落したり又は容易に人に盗まれたりせず、從つて犬獲りに、野犬と間違へられたり、犬を盗まれたりする心配は餘程尠くなると思ひます。
尚此の際一言して置き度いのは、近頃訓練犬等で畜犬票の付いた頸輪をはめずに、屋外を牽いて通つてゐる者が段々多くなつて來ましたことです。
訓練犬で訓練の必要から頸輪を付けることが困る場合には、一定の訓練場に限つて警察署の承認を得たる上に取外すやうにしたい。
若し畜犬票を付けずに屋外に連れ出す様なことをして、無届犬と間違へられたりしてはお互ひに手數がかゝる丈けでなく、どんな間違ひで犬が逃げ出さぬとも限ぎられませんから、此の場合捕へられたり、又は盗まれたりする事もありますので、畜主の利益の爲めにも畜犬票の付いた頸輪をはめておく事を忘れてはなりませぬ。
(続く)

 

警視廳衛生部獣醫課・犬の相談主任 荒木芳藏『近頃被害の多い畜犬の盗難豫防』より 昭和9年