1、昭和十六年度犬界に於ける最大の印象

犬の値段と交配料が高くなつたのに驚いた事。

 

2、昭和十七年の貴犬舎の計劃

ウツツを主としての複合血統高度貴化蕃殖の實施(第二回)せる事。

 

3、犬界の新體制的發展の具體的方法手段等

犬種の如何を問はず實際役立つ軍用作業犬の大量育成の急務、其れが實現の事、經験と實行力のある人をのみ以て組織し決行(名案妙案あり)の事。北満、北支、中支の全線及後方の守備犬の必要を知らざる哉、全國の愛犬家の奮起を乞ふ。

 

東京 日本シェパード犬協会理事 中島基熊 『前年度の犬界印象その他』より

 

JSVの中島理事は、KV側からの合併圧力を完全無視。その反抗的な態度ゆえに憲兵に呼び出しを食らうなど、身の危険に晒されることとなりました。

「戦地の後方守備犬」については、出征した甥の幸甚氏が書き送った北支戦線の惨状も影響しているのでしょう。

前略
〇〇を八月二日に出帆致しまして以來、今日まで健在にやつて居ります。然し此の二ヶ月間は實に並歳の三ヶ年に比す可き豊富な體験を重ねました。
北支と言ふより一般支那の犬は樺太犬に似た毛の深い犬で頗る大陸的で、石でも投げつける迄はぢつとして居ます。従つて番犬能力は低く、今頃は屍馬の肉を漁つたり、日本軍の宿舎の残飯を漁つたりして兵隊達にいぢめられて居ます。夜などは道に死んだ如く横たはり、その尾を踏む迄は悠々たるもので、如何にも支那式です。
日本軍の連れて行つた軍用犬は各聯隊や無線班等に居りますが、何れも痩せて可哀想です。未だ警戒用の軍用犬は一頭も居らぬ様ですが、夜半等居たらと思ふ事が私の部隊の様な警戒力の薄い隊では度々痛切に感じます。……後略。

中島幸甚『戰地よりの逓信』より 昭和12年