戦時中、各地域の行政機関はシェパード飼育者へ飼料を配給していました。配給元は「国の機関」ではなく「地方公共団体」であり、帝国軍用犬協会地方支部との交渉が決裂した場合は配給されない地域もあったのです。

その中で、帝国軍用犬協会登録犬や日本シェパード犬協会登録犬などに区別をつけず飼糧配給していたのがヴィンランド佐賀県。昭和16年には施行されていたことも分かる、貴重な記録です。

 

 

七月の太陽はサンサンと照り付ける。數日前迄未曽有の大雨でなやまされ、今度は殺人的の暑さにこまらせられる。大事なワン公を何とかして此の夏をすゞしく過させる方法と言ふ當面の問題でサテサテ頭痛鉢巻です。昨夏、犬の研究上、此の問題で犬界有名人が色々な實際の方法を發表されて居た事を思ひ出す。

其の内、地下室云々……があつたが、實際として成犬を飼育する場合は別として、可愛いゝ幼犬の場合、若し未知の客人に留守中、犬舎をのぞかれた時、此の幼犬の稟性に及ぼす關係を考へる時、之又おいそれと此の地下室を作る事の危険が思ひやられる(但し小生の犬はシヤイではありません)。

七月の宵、夏の虫が、哀調なリズムで鳴いて居る。例によつて今月のJSV佐賀同人會は今月はK先生宅で行はれました。集る者の數こそ少いが、犬好きと言ふ點では、絶對人に負けぬ連中ばかり。全國をあげてお菓子飢饉の此の頃であるのに、何處で手に入れたか、美味しいやつが山とつまれて居るのに、おどろく。

サテ會は順調に進み、DUXの十字部が飛び出して來るあたりがクライマツクスで、此の會も十二時近くなつたので閉會となる。支部に遠く、本部になほ遠い此の田舎の佐賀ン街が非常にガツチリした歩みを續けて行く處に我がはがくれの良さがある。今秋、或は明春のシーズンに、V賞の最上位級の仔犬が揃つて居る當地を、何も不思議に思ふ事はいりません。

やれ何やかやで、うるさい世の中に××(※KV)の犬も軍犬なら、×××(※JSV)のシエパードも軍犬に變りないと言ふ縣や市役所の理解で、血統書さへ持つて居れば人間以上の配給米を戴いて居ります。又他處と較べて、ワン公の運動には理想的な地形の街と田舎のつながり。それよりも大事な事は、少人數ながら犬友お互が、助けられたり、助けたりの隣組精神であるからでせう。

こうした事が原因して、V賞の最上位級が出來上る事は、當然の事と思ひます。若し、Vの最上位級を作り度い人は一日も早く此のはがくれにやつて來る事です。

凡そ、世の中に數多き名犬の居る中、勿論犬を見る目の無い小生に取つて、唯、好きと言ふ事の上で、長崎のヘルド・フオム・ハウスタカイシこそ、理想だと思ひます。幸ひ、彼はまだ未成犬にも達して居ない若者なれば、今後のヘルドこそ期待すべきでせう。

願はくば、好漢ヘルドよ、益々元氣で、我が九州の誇となれ。

 

佐賀生『葉隠』より