生年月日 不明
犬種 満洲産オオカミ
性別 牡

地域 東京府
飼主 南兼吉氏

 

平岩米吉の本を読むたび「この人、どうやってへー坊(ハイエナ)とかオオカミを入手してたんだろ?」と不思議に思っていたのですが、当時の動物商の資料を眺めると、多種多様な鳥獣が輸入されていたことに驚かされます。日本産狼が絶滅した後、ヌクテ(朝鮮狼)や満洲産オオカミも結構な数で来日していました。

 

 

南理事、狼に噛まれたお話。

満洲より渡來の狼をやがては猫の如く指先一つで意のまゝに動かそふと朝夕、苦労して居る我等の南氏。S犬と異り、反逆性を多分にもつた獰猛なる野獣。どうも意の如くならず、時々歯向ふそうである。

先日も満洲より來た時のまゝになつて居る、首輪の端が彼の頸に喰ひ込んで傷いて居るので、取り去つて楽にしてやらうと思ふが、肉に喰ひこむ位い確く締まつてゐるので、却々はづれぬ。人手を借りて苦心に苦心を重ねてゐると、どう感違ひしたか、生れつき兇暴な彼氏、俄かに物凄い唸り聲と共にぱくつと南氏の足に咬みついた。満面朱を注いだ南氏、矢庭に足を揚げて狼をふんまへ、鞭をあてる事數十筈、講談師なら此處で張り扇をうんと叩く處でさ。鼾をかいて居る奴を起す處でね。

兎も角咬まれながらも、漸くに首輪を外した南氏、足と手と三ヶ所の負傷を手當して、あとは風光霽月、静かに縁先に茶を喫して征服した狼をながめて「骨を折らせやがつた。まだ満洲に居る氣で居やがる」

田島庄太郎『士夢荘夜話』より 昭和7年