世間では「近代日本犬界は東洋で孤立していた」みたいなイメージが大半を占めると思います。だから、「ペット文化は戦後にアメリカから持ち込まれた」みたいな勘違いが横行しているのでしょう。

今回ご紹介するのは、戦時下における日独牧羊犬界の交流について(戦時中の帝國軍用犬協會や日本シェパード犬協會では、ドイツの牧羊犬資格試験制度を移入していました)。

 

 

本文は北海道のA氏より發せられたる質問に對し、獨逸SV(※独逸シェパード犬協会)よりの解答が協會本部に参りましたので、會員諸賢の御参考の爲めに其の大意を掲載させて頂くものであります。

 

(1)牧羊訓練の開始年齢は何ヶ月頃か。

生後五、六ヶ月の頃から曳綱付きで牧場へ連行し、牧夫との親和、一致を計り、先輩犬の作業状態を見せ、羊に馴れさす事を始める。斯くて二、三ヶ月経ると訓練を開始する。先づ命令語と(其の命令語に該當する)作業の一致に努めるが、主として先輩犬に見習はしめるのである。

(2)牧羊犬訓練には完成された犬の助力を得るのと単獨と何れが良いか。

第一質問に對する解答の如し。

(3)牧羊犬の飼料如何。

牧羊勤務中の犬には一日中に概して一回、夕方作業終了後に之を與へる。而かも少量であり、決して贅澤なものではない。日中に與へる時はせいぜい牧夫の残パン程度である。

食物は乾燥的なものを與へよ。重い脂肪食餌、水つぽいぢやぶぢやぶのものは不可(疲労の少い乾燥した体躯を必要とするが故なり)、単一、単調な食物より、混合食物(肉を主としたもの)が良いのであるが、必ずしも一定しては居らない。分量の少い事と疲労と云ふ點を考慮して、栄養價の高い(贅澤の意に非ず)ものを選ぶ可きである。

(4)牧羊犬には牡牝何れが優るか。

獨逸に於ては双方とも使用されて居る。何れが良いかは個々の牧夫の考へ次第である。

(5)一頭の犬の牧羊頭數。

獨逸に於ては普通一頭の犬が二、三百頭の羊を護る。勿論一定しては居らぬ。

(6)犬の大きさと作業能力如何。

犬の大小は影響がない。併し重い犬は不可である。重い犬は苦しい勤務に對して耐久力が全く無いからである。

(7)雑種牧羊犬も使用せらるるや。其の作業能力如何。

獨逸に於ては雑種犬も用ひられて居る。併し概して純粋犬に比し信頼性が乏しい。特に牧羊作業犬が代々牧羊作業犬系統に属する祖犬から生れて居る場合に於ては、其の作業能力は全く比較出來ぬ差が認められる。

(8)牧羊勤務犬とは同犬種の非上業犬よりも短命なりや否や。

數年間連續して困難な作業に従事する犬が何もせぬ犬より長命であると言ふ事はあり得ない。何もせぬのらくら犬は兎角脂肪過多、其の他の原因で短命に終る事が多いが、そんな犬は此の場合比較の外にある事勿論である。併し乍ら吾々は良く管理されて居る牧羊犬は十歳迄は作業を行ひ得ると信じて居る。

(9)牧羊犬の文献

餘り多くない。シユテフアニツツの「ヴオルト・ウント・ヴイルト」を参考にせられよ。

獨逸SV『牧羊犬に関する質疑と應答』より

 

ドイツと日本は「教師と生徒」の関係だったのではなく、日本のシェパード耐久力テストがドイツで紹介されたり、日本犬の資料を提供したりといった相互支援をおこなっていました。