牧羊業界が小規模だった日本で、牧羊犬シェパード普及のため「陸軍という大手就職先」を獲得しようとし、陸軍歩兵学校へ接近した日本シェパード倶楽部(NSC)。

軍用犬配備拡大へ向けてNSCへ接近し、ドイツ式の最新訓練ノウハウを得ようとした陸軍歩兵学校。

両者の目的が合致したことで、日本シェパード界は牧羊ではなく軍事分野を軸に発展しました(結果、ドイツ牧羊犬史を知らない日本人は「シェパードは軍事目的で作出された品種」などと誤解することに)。

その交流は帝国軍用犬協会(KV)が発足する前から始まっていたのです。

 

日本シェパード倶楽部の訓練競技会風景。観客席には、歩兵学校軍用犬研究班の軍服姿が目立ちます。

 

日尚ほ淺きに拘らず、成果は實に見るべきものがあつた。多忙時寸暇を竊んで努力される皆さんの熱意は誠に敬服に價する。この調子でいけば、次回は目覺ましい成績を示すだらう。

嘱目、期待茲に大きな樂しみを生んだ。

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秋天高く澄む審査課目の配當並に要領誠に宜しきを得受ける者觀る者氣持ちよし颯爽たり。

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場馴れをせぬため充分の技量を發揮し得ぬ犬も無いではない。技量はあつても、扱ひ者の一寸した不注意のため思ふ様に動かぬ犬もあつた。何れの課目にせよ實施の直前には充分犬を落着かせることが必要である。

衆人の前にいきなり出してやつたのでは、老練な犬でない限り六ケ敷いだらう。

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今迄數回の展覧會で優秀犬と銘を打たれた犬が餘り顔を出して居なかつたのは返す〃も殘念だつた。訓練してないのだらうか、それとも訓練が六ケ敷いのか、女房も添うて見なければ解らぬ様に、立派な顔をして居ても案外低能な犬も澤山居る。人さへ見れば吼いつく噛みつくばかりが犬の能でもあるまい。

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觀覧者の態度が實に麗はしい。ほんとに犬に理解を持つて見て居る。吾々犬を扱ふ者にとつては此上もない喜びである。只希くは最後の表彰授與まで居て、賞を貰つた犬と訓練者を賞讃して欲しいものである。

 

暴言

NSC訓練の呱聲を擧ぐ成果赫々努力の跡只感激あるのみ。

馬は乗り手、犬は使ひ手次第。ではモツト技量を發揮しそうな犬もないではない。

犬も訓練、先づ人の訓練でないと犬が可哀想。

別嬪だが少し足らぬと、少しは不別嬪でもシツカリした犬が欲しい。

體形バカリが能なら氣に入つた剥製にするがよい。動かぬが嫌ならロボツトもある。

形もよい顔もよい兩手に花なら申し分はないが。

宅の犬は軍犬などにするのではないと、イザとなれば猫まで立たねばならぬ時も來る。

疑惑も憎惡もホツポリ出しや、皆な犬の好きな團りだ。そうでなけりや何の團りだ。

 

歩校軍用犬班 村上中尉「訓練競技を見て(昭和7年)」より

 

村上中尉率いる歩校軍用犬班のデモンストレーション。軍用犬の宣伝活動として、歩校は各地の畜犬競技会に出演していました。

 

歩校とNSCの蜜月関係はKVの発足と共にあっけなく崩壊。犬籍簿を狙って合併を迫るKVから逃れようと軍部にすがったNSCは、陸軍省が仕掛けたNSC包囲網にようやく気付いたのでした。

こうして、日本初のシェパード団体NSCは消滅。日本シェパード界は、KVを窓口とした軍犬の資源母体と化します。