えぞヶ島に熊が住むだは昔のこと。
北海道には土産の犬が居つて、耳が立ち、尾は巻き上がり、毛色は雪國なるが故か白色の中型犬。性、中々勇猛であつて、往時アイヌ族が熊狩に使用したといふ。
アイヌ族はアイヌといはれるのを嫌がるので、この犬はアイヌ人の前では日本犬といふが、われ〃はアイヌ犬と呼んで居る。

北海道でも銃猟が盛んである。犬は先づセツターとポインター、狩猟の趣味が有産・有閑階級に浸潤して間もないためか、よい猟犬は實に少數である。シエパードは猟犬にならぬものか。

最近愛犬熱が勃興して來て、シエパードを先頭として、グレートデン、ドウベルマンが移入される。エヤデル、サモイド、チヨウチョウが來る。それに當地の農林省の種羊場からコリー、ケルピーを拂下げるといふ次第である。
私達も昨年五月に北海道愛犬倶楽部を結んだが、會は愈々盛んで會員六十名を超へた。この流行の間に断然と光り輝く犬種の名はシエパード。私がNSCに加盟させていたゞいたのは昭和五年十一月。當時の名簿に北海道では室蘭の大井守雄氏丈であつたので淋しいまゝに大井さんに手紙で話し掛けたものであつた。

それから六、七、八と年が変る。その間にシエパードが來る、又來るの消息に拝見に行くのが非常な楽しみであつた。
然しその多くは實に何んともいへない犬のみ多かつた。
目下北海道で一番多いのが札幌で、まづ二十頭位といふ。その他の土地は僅少、日本シエパード倶楽部のメンバーもだん〃増加して居るので、愈々北海道支部が設置されるといふことになつた。
これからである。相互に親睦を計り、研究を重ねて、いゝシエパードの作出に努力しなければならぬ。産馬界に於ける光栄ある北海道は、又犬界に於ても誇を持ちたいものである。
せめてもの念願である。
安達一彦「えぞらんど便り」より