近頃鳥獣類の激減せしは的確なる事實にして、其因て來る處は遠く且つ種々の原因ありと思ふ。
而して此秋にあたり鳥獣保護蕃殖上尤も必要で且つ適切と信ずる其方法を述べて、江湖の参考に供せんとす。

由來吾國に於ける狩猟期間の六ヶ月は餘り永きに亘るの傾きがある。
欧米諸國では其狩猟期間は長くつて二ヶ月位である。而して減少し易い所謂獲り易い禽獣に向いて其期間を三週間か一ヶ月位に制限し、鳥獣保護蕃殖を計て居る。其期間を短縮すればする程、鳥獣蕃殖率の向上する事は無論の事である。

先づ此問題を解決する第一歩として猟期初めを十月十五日の代りに十一月一日と改正されん事を主張するものである。即ち山の猟と里の猟(海の猟も含む)同時に施行する事を希望するのである。
かく変更する事に依り、いま〃しい狩猟法違反問題を起らぬだらうし、猟期外に碌に飛立つ事すら出來ぬいた〃しい雉子山鳥を打留むる恐もなくなり、真の趣味深きスポーツを味ふ事が出來ると思ふ。

此問題に付き、吾輩が最も強く諸氏の前に叫ばんとする事は是である。
即ち里の猟士連は十月十五日の解禁日になれば、海や川や水田原野等を駆け廻つて思ふ存分狩猟味を味ふ事が出來るが、如何せん山間に居住する猟士連は指をくはへて里の連中がなす事を見物して居らなければならぬ。
即ち待ちに待ちたる狩猟期が來ても其恩恵に浴する事の出來ぬ次第である。

エーいま〃しい。
裏の山に行つて兎でも打留めんと猟犬を引連れ銃を肩にし、裏山に行けば兎は飛出さぬが、犬が臭に付くまゝに随て行けば黒い物や赤い物が飛てば、何時の間にか銃は火蓋を切れり。
一發ヅドンと其處に禁鳥の一羽は猟嚢に収められたり。段々其度が重なれば狩猟法違反などは何んとも思はぬ様になり勝である。
愈々十一月一日の雉猟の解禁日になる頃は、其半ば打平げらるゝと云ふ状態である。
否、其殆んどが打平げらるゝ事實である。
何と苦々しき事ではないか。

扨而愈々十一月初日の解禁日には里や町の大天狗小天狗共が腕に撚をかけ今日の壱番槍の功名をなさんものと勇気凛凛猟場に來り、犬を入れて見れば多少臭はあつても一羽も飛出さぬ。
ハテ変だ。
こんは筈はないがと案内者に尋ね見れば、前述の次第をポツリ〃物語るのである。事是處に至れば如何に警察でさわいでも後の祭りである。
かくして一日千秋の思ひをして待ちに待ちたる雉子解禁日も不愉快と不平と怨嗟との外何物も獲ない始末である。

なんと惨めな猟士連ではないか。折角高い税金を拂って免状を受け、多額の費用を使つて出猟して見れば此始末である。
勿論彼等解禁前の密猟者の行為は實に悪むべしと雖も、一面彼等に對し一掬の同情なしに聞流して置くわけにも行かぬのである。

如何となれば如何なる人と雖、彼等と位置を更ゆれば同じ心理状態となり、良心の制裁も鈍り勝となり、彼等と同様に避け難き事情の下に避け難き力ある一種のテンプテーシヨンに遭遇すれば、同一行為をせざる事を断言する事は困難であらうと思ふ。

要は此弊多き狩猟法を改正し、尤も明るき法規の下に尤も愉快に楽しき猟をしたいのが吾輩の本望である。
即ち十一月一日を以て一般狩猟の解禁日とする事に依り、此問題は解決すると思ふ。
かくして解禁日に起り勝ちの同士討ちやら過傷罪等の事件も減少する事と思ふ。

宮地生「狩猟期間を短縮せん事を建言す」より 昭和6年