和漢今昔犬之草紙(全6巻)
作・絵 暁鐘成 
出版 嘉永7年(1854年)

犬
犬之草紙壱巻。犬の斑模様を意匠とした、ユニークな装幀となっています。

帝國ノ犬達は近代日本の犬を対象としておりますが、気力・体力が尽き果てた場合(連日の忘年会でぶっ倒れそうな時とか)はその限りではございません。
てな訳で、江戸時代の犬本「犬の草紙」に掲載されたお話をポツポツと。

初回は序文。
鐘成さんが本書を著した理由が書かれています。

犬

いにしへ浄原宮の御代、五畜のと殺を禁め給ひし時、犬即ち其一なりき。
抑ゝ(そもそも)禮記に宗廟を祭るの礼、犬を羹獻(こうけん)とすと見えたれども、神僊傳なる淮南王の仙薬を嘗て、鶏犬天に上りしなどハ遮莫(さもあらばあれ)、法苑珠林の犬は夜吠(やはい)を勤め、鶏ハ暁鳴を競ふとといへる属の、たゞ人間(よのなか)に益有のみかハ信義を重んじ威霊を顕す事、豈他獣とともに謂ふべきにあらざるを以て、かゝる制令(おきて)にも加へたまひしは、異邦の聖だもなほ愧(は)ずべくなん、いとゞ畏き恩頼に社有(こそあり)けれ。
粤(ここ)に南坡老人常に狗を愛しみて、よくこれを育養ひ、且その疾(やまい)を療すも亦術に委(くわ)しきが、やがて倭漢今古に見聞せる、犬の故事どもを博(ひろ)く輯(あつ)めて、六綴の冊子となし、號(なづ)けて霊獣譚奇といふ。
此書蓋し勧善懲悪をバ専らとするものゝ、尚白鳳の明詔(みことのり)に乖(そむ)きて、猥(みだり)に罪なきいぬを殺すものを戒むるにあり。
故に余其本意を量識りて、巻端に述ぶる事しかり。

嘉永癸丑仲春静處散人正宣
苞流居の南窗にしるす

(次回へ續く)