警視廳の調査に依ると、東京市内の畜犬は現在四萬一千七百四十六頭で、中四千五百八十四頭といふものは其の飼養の目的が判然してゐない。
これは殆ど純粋でなく、従つて良犬は少く、駄犬で多くは野良犬上りや、お嬢さんから「ワタシと思つて可愛いがつて飼つて頂戴」と押しつけられたもの、犬類としては誠に不甲斐なき者。
哀れなのは流行を追ふ主人に飽かれて棄てられ野良犬に落ちたものが相當ゐることで、かゝる傾向は一昨年より昨年、昨年より今年と特に目立つて來た。

「野良犬が増加」より 昭和12年

昭和12年といっても、日中開戦前の記録です。
内地が平和だった時代にこの有様ですから、食糧事情が逼迫した戦争中期以降は悲惨な状態になっていた事でしょう。
血統書がないだけで駄犬呼ばわりとは、お国の役に立つ軍用犬、警察犬、猟犬以外への風当たりも強かったんですねえ。
ブームに飽きては犬を棄てていたのも現代の日本と一緒。80年間進歩が無いのも困ったものです。