犬

讃岐の高松地方にては、嫁入人形として結婚の時、婚家並に近所の子供への土産物として、張子や土の人形を嫁入の荷物と共に持ち行く風習あり。
其人形の多き程、花嫁の鼻も高いと云ふ有様にてこれには犬が鯛を抱いてゐる稚気満々たる鯛狆を主とするも、犬だけの物もあり、其他狆曳子供・亀持子供・桃持子供・鯛戎、福助など縁喜よき物多し。
犬猿などは、其語呂よりして縁喜を祝ふ婚禮の場合には忌避する地方さへあるに、「いぬまいめでたい」と云ふ善意に解釈して祝ふとか。
御幣も担ぎ様によりて吉凶いづれにも通ずる自在のものか。
蛭子大黒の如き福神の玩具は相當多きも、かゝる神像を玩具扱ひしては、もつたいないとの考へより、鯛持子供・俵持子供等の玩具となり、更に変化して、鯛狆・俵鼠となれるものあり。
又鯛狆の如き赤絵具の玩具は鯛車・鯛戎・達磨・金太郎・猩々猿・赤馬・赤犬等の玩具と共に疱瘡除の禁厭として用ふる所あり。

高橋狗佛「犬の郷土玩具」より 昭和9年