愈々秋だ。實りの秋。
落着きのある、味覚豊富な、S犬の為めの秋と云ふ様な感じで一杯だ。
此稿公けにされる頃、當地方の第二回展覧會が當市で開かれる。今年は非常な盛會を豫想されてならない。

兎角、北海道は地理的に損をしてゐる。
本州のものは、北海道を極く小さいコロニー程にしか考へず、函館も奥地の根室、稚内等をも同一にしたがる傾向がある。

先日来訪された境内医学部のN氏の話ではないが、熊が街をうろうろ歩き廻つて居るかの質問が度々でうるさいから、「北海道には熊とり線香といふのがあつて、その為めに街には熊がごろごろ死んで居た」といつたら、感心して聞いて居たといふ事である。面白い事を云ふ。
事程左様に認識が足りない。一つの概念的なものに拘泥し、正しく思考する余裕をなくして居る。
北海道展、殊に本州と最も近接した函館に開催される展覧會にすくなくとも東北、奥羽の一部は出犬してもいゝと思ふ。

尤も出犬する丈けの自負のある犬がなければ仕方がない。
かつて東北の一友人に出犬してみないかとすゝめたところ、仙臺には出すが北海道には持つてゆかん。然し、旅費・運賃をもつなら出してもいゝと云ふ返事であつた。
驚いた。これには、亦何をか云はんやである。こちらからノシを付けてお断りしませう。

阿々。東北、北海道は相ひ扶助してS犬の為めに貢献しなければならない。之が私の考へ方。
来るべき展覧會に一地方としてゞもいゝ、そこに何か得ることろがあり度いと思ひ、且祈念し擱筆する。
9.19.1939

永岡恒雄「DER WURF」より 昭和14年

シェパードの地方展覧会ですが、早期に北海道各地へ支部を展開していた帝國軍用犬協會と違い、日本シェパード犬協會は開催に苦戦していたのでしょうか?
東北との共同開催案も出されていますけど、岩手シェパード倶楽部といったNSC系の団体と共催とかムリだったのかな?その辺の詳しい事情とか知りたいのですが。

なお、子供の頃「北海道はヒグマがその辺を闊歩し、年中流氷に蔽われている場所」と思っていた私に、熊とり線香のホラ話を笑う資格はございません。