原産地 
獨逸
特徴
獨逸では極く有りふれた、づんぐりと丸つこい一見ブルドツグに似た恰好の中型の犬である。
所謂飼主一點張りの犬(ワンマン・ドツグ)で、飼主や其家族には忠實でよく服従するが、他人に對しては疑ひ深く、容易に馴染まない。のみならず祖先が闘犬の選手として活躍した時代があつたゞけに、剛胆勇猛の志が尚ほ存してゐるから、番犬、護衛犬としては充分に信頼が置ける。怜悧で扱ひ易いから伴侶犬としても悪い筈がない。
鼠を捕殺する技もなか〃優れてゐるから、其方面に利用する事も出来る。
身體全體が正方形をしてゐる。即ち前胸から臀部への距離と、地上から背の頂點への距離とが略ぼ同一の割合になつてゐる。
所謂アンダーシヨツトで下顎が突き出てゐる。
毛質は平たい短毛で、光沢をもつてゐる。毛色は黄褐色と虎斑とある。前者の場合は顔に濃淡の黒斑があり、虎斑の場合は黄褐色の地に濃淡の黒條が肋骨の方に向つて走つてゐる。
用途
軍用犬、護衛犬
大きさ
中型、體高牡で二一~二三・七五吋

「新流行犬百種」より 昭和11年


犬
戦前のボクサー 昭和11年

18世紀、ドイツの獣猟犬ブレンバイザーにマスティフ系の犬を交配して作出された犬。
日本に輸入されたのは昭和9年が最初とされております。
来日時の記録が見つからなかったので、それから2年後のモノをどうぞ。

私はボクサーが好きで、獨逸にゐました頃はボクサーを飼つてゐました。ボクサーのどこが好きかと云ひますと、あの顔で、殊にパツト見た時の顔が一番好きです。
女が、あんな奇怪な顔のどこを好くのかと変に思はれる方があるかも知れませんが、よくボクサーの顔を一度ごらん下さい。
とても愛嬌のあるいゝところがあります。
性能も静かで、番犬としてもいゝと思ひます。家の中でも非常に音無しくしてゐますが、一旦怪しいものを発見すると猛然と向つて行きます。
それでボクサーを連れて散歩するときは絶對に信用が出来ます。
又ボクサーは飼育が至つてやさしいのですが、その上にとても楽しみなことがあります。
それは仔犬が毎日と云つてもよい程に顔の形が変つて来ることです。段々皺が増えて、面白い顔になつて行きますが、それは本當に楽しみなものです。


クララ・ミュラー「愛犬種の肩をもつ」より 昭和11年

戦前の資料にはボクサーの話が幾つも載っているのですが、「自分が飼っている」という記録にはなかなか巡り合えません。この文章もドイツ時代の思い出話。
因みに、このクララさんはカール・ミュラー訓練士の奥様です。
来日したカール・ミュラー氏は、アスター商会を通じてシュナウザーやロットワイラー等のドイツ使役犬を輸入していました。その中にボクサーが含まれていたのかも知れませんね。

カールミュラー
使役犬獨逸訓練学校(板橋区西大泉町)にて、ミュラー夫妻