満洲國に於いては島國に居住してゐる者の想像もつかない廣い國境をひかへて居り、常に軍用犬はその平時勤務として税関監視に日夜涙ぐましい活躍を為してゐるのであるが、五月中も安東税関に於いて次の様な事件に軍用犬としての機能を発揮し世人の絶賛を浴びてゐる。

第一話
五月二日午後十一時三十分、密輸者を検挙すべく下濱第二水門附近を石井、近藤両雇員が各自フエーヤ號、ジヨン號を同伴し、潜伏監視中、午前二時半頃、数十名の緬布密輸團が江岸から上陸、逃走せんとした。
間髪を容れず二頭の犬に襲撃を命じ、これ等を追跡し、フエーヤ號は一名の密輸者に追付き身體の自由を失はしめた。関員は直ちに此者を抑留し、所持してゐた人絹布十疋、人絹糸五個を押収した。

第二話
五月二十一日午前十一時半頃、特別巡邏班及び橋側附近警戒の為め來援した犬舎勤務者が監視犬三頭と共に朝鮮混合列車飛乗犯則者防止の為め、発車と共に鉄道線路に沿つて監視して居た所、一名の犯則者もないので輸出監視所に引揚げやうとしたその時、線路下の林中に挙動不審の一人が関員の隙をうかがつて逃走しやうとするのを発見した寺内傭人は直ちに之に近づき、ブリツヂ號を以て「逃げると犬を放すぞ!」と威嚇したにも拘らず強行逃走したので、遂にブリツヂ號に襲撃を命じた。
ブリツヂ號は約五米にて此者に追付き、脚部を咬み転倒せしめ容易に逮捕した。この密輸者の身辺捜査をした結果、現大洋二百圓を発見押収した。

第三話
五月二十七日午後二時四十分、中濱に於いてヘルム號を同伴監視中の時、雇員は挙動不審の一人を呼び止め取調べやうとした所、矢庭に逃走したので直ちにヘルム號に襲撃を命じ之を追跡せしめ遂に之を逮捕した。
身辺捜査の結果、腹部に現大洋二百五十圓を隠匿してゐるのを発見、之を押収した。