【8月度】
帝國ノ犬達-税関犬

【安東税関】
八月一日六道溝監視所勤務黒杭監視員はジヨン號を同伴監視所前岸に於て立哨監視中、午前七時頃新義洲より渡航し来たる一隻のサンパンより挙動不審なる一鮮人上陸したるを呼止め、身體検査を為さんとしたるに隙を窺ひ矢庭に六道溝部落方面に向つて逃走を企てたり。
依て帯同せるジヨン號に追撃を命じ彼を追はしめたるに、果敢なるジヨン號は難なく彼を逮捕するを得、該犯則者を監視所に連行、身體検査を為したるに腹部に人絹布ニ疋隠匿し居たり。

八月二日午後七時、ブリツヂ號を帯同せる酒寄監視員は、同僚巡邏班員数名と共に下濱第二揚場に赴き潜伏警戒中、間もなく江上を滑るが如くサンパン一隻渡り来り。
約二十名の密輸者江岸の影を伝ひて上陸、市内に向つて逃走せんとす。
巡邏班員は機を逸せず直にブリツヂ號に襲撃を命ずると共に、全員之に続きて急迫したるに、虚を衝かれたる彼等は周章狼狽突進し来る監視犬の威力に懼れ、各背にせる叺(かます)を急遽放棄して四散、茲に粗塩十三俵を押収するを得たり。

八月十一日巡邏班に属する酒寄監視員は同僚数名と共にブリツヂ號を同伴し午前零時下濱第四見張所付近に潜伏警戒中、對岸新義洲営林署付近より発せるにや怪しげなるサンパン二隻闇夜を縫ひて急速力にて渡江し来たり。
張込箇所前方の石垣より約四十名の密輸団上陸し、叺を背負ひて市中に潜伏せんとす。
依て酒寄監視員外巡邏班員に急いで其の前面に踊り出で機先を制して之が進路を扼し、大声を発して「逃げると犬に咬ますぞ」と威嚇したれば監視犬の脅威を感じたる彼等は背負へる粗塩叺を悉く投げ棄てクモの子を散らすが如く遁走せり。

八月二十一日巡邏班に属する趙監視員はレツキ號を同伴し班員と共に午前五時五分安東着、貨車飛降り密輸者検挙の為庁構内の各要所に潜伏し、該列車の進入を 待ち居たるに、軈て警笛一声驀進し来れる列車が同構内に差掛らんとするや、果然右列車の後部より密輸者三名飛降り、境界線鉄条網を乗り越え一目散に市内に 遁走せんとす。
依て猶予なくレツキ號を放ちて之を追はしめ、難なく犯則者全員を検挙し左記物品を押収するを得たり。
人絹布十一疋