以前ご紹介した大正時代の警視廳畜犬取締規則 は昭和10年に改正されました。
今回はそちらの内容をどうぞ。

当ブログでは明治・大正・昭和の畜犬取締規則を取り上げてきましたが、地域や時代による違いを比べても面白いですね。
堅苦しい記録であっても畜犬取締規則は日本ペット史の根幹部分。昔の人も好き勝手に犬を飼育していた訳じゃないんですよ。
また、日本社会にとって狂犬病が如何に脅威だったかも窺い知ることができます。


(改正)畜犬取締規則(昭和十年十二月六日警視廳令第二十八號・昭和十一年元旦施行)


第一條
犬を飼養する者は左の事項を具し、五日以内に犬の飼養地所轄警察署長(以下単に所轄警察署長と称す)に届出づべし。但し届出たる犬(以下単に畜犬と称す)の分娩したる仔犬にして生後九十日を経過せず且其の飼養者に於て飼養するもの及商犬は此の限に在らず。
一、所有者の住所氏名
二、飼養地(所有者以外に於て飼養する場合は其の氏名を併記すること)
三、犬の名称
四、牝牡の別
五、飼養開始年月日
前項第一號の事項に変更ありたるときは五日以内に所轄警察署に届出づべし。

第二條

畜犬には所有者の住所及氏名を明記したる畜犬票を頸輪に装着すべし。

第三條

左の場合には飼養者より五日以内に處分方法を具し、所轄警察署長に届出づべし。
一、斃死したるとき。
二、譲渡、所在不明等に依り飼養を廃止したるとき。

第四條
東京市内の飼養者にして譲渡又は所在不明に依る場合を除き、犬の飼養を廃止せんとするときは之を所轄警察署長に引渡すべし。

第五條
犬の売買、交換又は訓練を業とする者は左の事項を具し、五日以内に所轄警察署に届出づべし。
一、住所及氏名(法人に在りては其の名称、事務所所在地及代表者の住所氏名)
二、飼養地
三、業態の種別
前項の業者廃業したるとき又は届出事項に異動ありたるときは五日以内に所轄警察署長に届出づべし。

第六條
前條の業者は左の事項を遵守すべし。
一、飼養場所は常に清潔に保持すること。
二、犬の逸走又は危害防止に必要なる管理を為すこと。
三、蚊蠅を駆除し其の発生を防止すること。
四、汚水又は汚物は溜により流溢せしめざること。
五、売買、交換又は預り犬名簿を備へ、取扱事項を明にすること。

第七條
飼養者は其の犬に對し狂犬病豫防注射を命ぜられたるときは之を施行し、注射證明書の交付を受くべし。但し獣医側に於て期間を定め其の施行を猶豫したるものは此の限に在らず。

第八條

人を咬傷したる犬の飼養者は直に繋留其の他適當の措置を為し、其の旨所轄警察署長に届出で、解除の指示ある迄之を継続すべし。。

第九條
必要ありと認むるときは、家畜防疫委員に於て犬の検診を行ふことあるべし。
前項の場合に於て、飼養者は検診に必要なる助力を為すべし。

第十條
飼養者は犬の濫殖を防止するに必要なる措置を講ずべし。

第十一條
狂犬病豫防の為家畜傳染病豫防法第十六條第一項の規定に依り、畜犬の往来停止を命じたるときは飼養者は其の畜犬の徘徊を防止するに必要なる措置を為すべし。但し口網を附して索行するは此の限に在らず。

第十二條
所轄警察署長は第五條の業者又は咬傷の虞ある犬若くは傳染性疾病ある犬の飼養者に對し取締上必要なる命令を為すことあるべし。

第十三條
本令による届出は巡査派出所又は巡査駐在所に口頭を以て之を為すことを得。

第十四條

第一條乃至第八條及第九條第二項の規定に違反し、又は第十二條の規定に基きて発する命令に違反したる者は拘留又は科料に處す。

第十五條
本令の罰則は飼養者未成者又は禁治産者なるときは其の法定代理人に、法人なるときは其の代表者に之を適用す。但し第五條の業者にして其の業務に関し成年者と同一の能力を有する未成年者に在りては此の限に在らず。

附則
第十六條
本令は昭和十一年一月一日より之を施行す。

第十七條
大正十三年三月警視廳令第三號畜犬取締規則及大正十四年八月警視廳令第三十一號は之を廃す。

第十八條
本令施行前に届出たる犬は本令に依り届出たるものと看做す。

ついでに、犬を取締る側の規則も載せておきますね。

(改正)畜犬取締規則執行心得(昭和十年十二月六日訓令甲第八十號・昭和十一年元旦施行)

第一條

畜犬取締規則(以下単に規則と称す)第一條第一項の届出ありたるときは、規則第二條の規定に依る畜犬票は可成金属製のものに住所氏名を刻記したるものと為すべき様指示すると共に別記様式に依る畜犬臺帳に所定の事項を記入して飼養者氏名のイロハ順に整理すべし。

第二條

規則第一條第二項の規定に依り届出ありたるときは臺帳を訂正し、飼養地変更の届出に在りては舊飼養地所轄警察署長に其の旨電話を以て通報し、臺帳の削除を求むべし。

第三條

規則第三條の届出ありたるときは臺帳を削除すべし。

第四條
規則第四條の規定に依り犬の引渡を受けたるときは速に其の旨衛生部に電話を以て報告し、人夫の派遣を申請すべし。

第五條
規則第五條の規定に依る届出ありたるときは別記様式の業者名語に所定の事項を記入し、異動ある毎に加除訂正すべし。
前項の業者に對しては受持巡査をして毎月一回以上視察せしむべし。

第六條
規則第七條の規定に依り豫防注射を受けたるものは證明書に依り畜犬臺帳の裏面に「何年何月注」と略記すべし。

第七條
規則第八條の規定に依る届出ありたるときは、咬傷年月日、犬の名称、飼養場所、飼養者の使命、被害者の住所、氏名、咬傷部位及咬傷の動機を電話に依り速に衛生部に報告し、家畜防疫委員の検診を申請すべし。
前項の場合には臺帳の備考欄に咬傷年月日を記入し、視察を周密にし狂犬病の疑あるときは即報すべし。

第八條

咬傷犬の検診の結果は速に之を被害者及犬の飼養者に通報すべし。

第九條
咬傷犬に對する繋留其の他の施設は所轄警察署長に於て咬傷後一箇月を経過し危険の虞なしと認めたるとき之を解除する事を得、繋留其の他の施設を解除したるときは其の年月日を臺帳の備考欄に朱書すべし。

第十條
規則第七條第一項の規定に依る場合の外、所轄警察署長に於て犬の検診を必要と認めたるときは、其の事由を具し、衛生部長に報告し家畜防疫委員の派遣を申請すべし。

第十一條
巡査派出所、巡査駐在所には第一條に準じたる畜犬臺帳を備へ、異動ある毎に加除訂正して無届犬又は咬傷犬の應急處置を為すべし。

附則
第十六條
本令は昭和十一年一月一日より之を施行す。
大正十年三月訓令第七號畜犬取締規則施行心得は之を廃止す。