十一月四日に七師團長杉原閣下が軍用犬の閲犬式をするから出てこないかと支部からの通知で友人の愛犬をつれて旭川へ出掛けました。
午前九時までに輜重隊まで集れとのことで、汽車が九時半に着くので奮発して師團まで自動車をブツ飛す。
この田舎のプロ、自動車に乗れるのも犬のお蔭だ。
輜重隊でヒラリヤの血液検査と特に田舎から出掛けた小生等二人のために糞便検査をして頂いて、十一時半司令部前で師團長閣下は蟻川獣医部長、助川高級副官等随行でニコ〃顔の閲犬式が行れました。
集るはシエパード十七頭。平和なこの式が終つて頂いたビスケツトを犬に與へ、偕行社で一同中食、解散しました。

私達は田舎者には違ひないが、好きなだけ相當の経験もし本も読み、犬も機會ある毎に多く見もしてゐますが、北海道なんてと随分失禮な不愉快なことが多い。
色々な所謂軍用犬通の大家がお見えになつて御高説?を聞かせて後、すゝめるのが決つて金もうけの話だ。一寸でも耳が立つてゐればシエパードだと云つてくれてくる不届きな商人もおり、協會外の所謂通の人やインチキ犬屋は腹の中で算盤をはじいて色々と未知の人に有利な事業とすゝめる。
而も其の人間に騙される者が相當にあるらしいので、吾々は出来るだけ御注意をしてゐますが、兎に角北海道は犬の飼育にとつては恐らく日本中で一番良い所であるらしく、吾等の愛犬は皆とても元気に成育されてゐる。
この軍用犬の「聖地」を一寸たりとも俗輩や悪辣なる商人によつて冒されることのないやう、吾等在道會員は極力軍犬擁護に努めることにしてゐます。

玄番生 「北海道の一隅から」より 昭和8年