現在我が國のシエパード犬の発達改良は驚くべきものがあり、獨乙SVあたりでも感心して居る想です。
そもそもこのシエパードの発祥は今より五十余年前とも(英國アワードツグ誌)七八十年前とも(アメリカン・ケネルガゼツト)とも称して居りますが、兎に角此の犬種が純使役犬として軍部に採用せられましたのは、欧州大戦(※第一次世界大戦)の獨乙ウイヘルム・カイザーの帝政時代である事は確であります。
我が國に輸入せられましたのは約二十年前、元獨乙ハンブルグ総領事を致し居りましたマツケンジ―と云ふ人が自分でも犬種の何たるを知らず横濱に連れて来られたのが初めてだそうで、それからズツと後れて愈々日本人の所有として阪神に輸入せられましたのが、今から十五、六年前になりませうと思います。
その時分はオリヂナルなネームとしてウルフドツグ(狼犬)と称して居りました。

因に現在のシエパードと云ふ名称は日本人以外と獨乙人以外には一寸解りません。
英語ではアルサツシヤンと呼び、伊、瑞西其他のニ三國方面ではシープドツグ、米國ではアーミイドツグと呼んで居ります。

元々日本でもシエフアードがシエパードに一致せられたのは六、七年前(※正確には昭和3年2月、日本シェパード倶楽部設立時)でありまして、それまではシエフアードとシエパードの二ツに別れて居ました。
発音から申せばシエフアード(Shepherd)が正しいのです。

こんな例は外事々務に従事して居る者は何時も起る問題で、例へばアメリカのセクレタリといふ語を大臣と訳したり長官と訳したりまちまちで困つた事がありました。
その節もアメリカの場合何々長官(労働長官、國務長官)とすべきと申し合せ今日に至つた様な場合もあり、これに似よつた例は外務省関係には往々起ることですから何も不思議なことではありません。
つまり現在のシエパードは羊の番人といふ意から出たものであります。

荒木傳「犬界トピツク」より 昭和11年

何だかシェパード来日に関する新事実がボロボロ出て来てますね。凄いなー。
それはともかく。
「獨逸番羊犬」と呼ばれていた洋犬の日本呼称が「シェパード」に統一されるまでにはこのような経緯がありました。
せっかく「シェパード」にしたのですから、日本で「シェーファーフント」などとカッコつけて呼ぶ必要はありません。
そういうのは押井守ファンだけにしときましょう。