水兵服とホーレン草でおなじみのポパイの小父さん……、この一家には可愛い赤ちやんがゐます。
ポパイと同じ水兵服をかむつて、今朝も窓からオイタをして草花の鉢を突落してしまひました。
ポパイの小父さんはホトホトこの赤ん坊には手を焼してゐます。いくら叱つても直ぐハイ〃して悪戯をはじめるので、とう〃ベツトに檻のやうな蓋をして鍵をかけてしまひました(すると、赤ん坊は、どうでせう。シーツの下をめくつてハイ〃何處かへ逃げ出してしまひます)

帝國ノ犬達-ポパイ

この時ポパイの小父さんが外から帰つてきました。みれば小犬を一匹、お土産に連れてゐるではありませんか。
ポパイの小母さんはまアーと大喜びです。
ところが、この仔犬は魔法犬といふやつて、今見えてゐたかと思つたら、そのまゝ忍術使ひみたいにスーウと消えてしまふのです。
小母さんがアラツ!!と驚いたかと思つたら、ポパイの上衣から、その犬は再び現はれました。

部屋にかへつた小母さんは赤ちやんがまた見へないので大騒ぎします。
そこでポパイは早速、赤ん坊の行動を、この犬に捜索させます。
この魔法犬はクン〃床をかいでゐましたが、、窓のところにくると、向ひ側に渡つてゐる一本の綱をドン〃渡り出しました。
ポパイも続いて渡り出しましたが、足を踏み誤つて危うく墜落しさうになりましたが―、運よくパイプの曲つてゐるところが綱に引つかゝつて助かりました。
やつと、向ひ側の屋根にたどり着くと、この犬はピヨン〃屋根から屋根へを越へてクンクン赤ん坊の逃げ出した先きを追ひます。
ポパイの小父さんは気が気ではありません。
この犬は樋の中を潜つて急転直下、地上に下りてしまひます。
あとに残つたポパイは身體が大きいので樋の中にもぐれませんが、無理に身體を入れたので途中で折れてしまゐます。

この魔法犬は、なほも地面に鼻をスレ〃にして赤ん坊を捜し索めてゐます。
ポパイの小父さんも負けずに犬みたいに四つん這いになつて後を追ひます。
レンガの沢山積み重ねたところに出ます。犬が、この中らしいと合圖するので、ポパイは得意の怪力で投げ飛ばしてみたが中には何もありません。
かへつて舞ひ落ちたレンガの為めに囲まれてしまひます。
犬が木に登ればポパイも木に登ります。そこにも赤ちやんは見當りません―。

かくするうちに犬は再び元の家に戻つてオイオイ泣いてゐるポパイの小母さんの膝元を潜つたので、小母さんはビツクリ飛上りました。
―そして元の窓に飛付くと、カーテンをくわへて引つ張りました。
「オヤ、坊やは、こんなところに隠れてゐたゾ」
カーテンの中から飛出した坊やをポパイ夫婦は喜んで頬づりします。この足元で魔法犬も得意の鼻をクン〃鳴してゐます。

小川たけし文・絵 「ポパイの魔法犬」より 昭和15年



ポパイの元へ犬(?)のジープがやって来た時のお話。
元ネタのアニメはこちら↓
http://www.youtube.com/watch?v=rYK66ysrhiY

ポパイは戦前の日本雑誌でも連載されており
ミッキーマウス とかキングコング などと共に、広く受け入れられていた事がわかります。