畜犬飼養者及蕃殖者にとつて著しい負担となるものは今日に於いては畜犬税である。
畜犬税は遺憾ながらライヒ(国家)の法律及多くの聯邦に於ても亦その聯邦の法律の手を離れて、地方団體の管轄に移されて居る。
然るに地方団體たる都市の當局中には犬の敵たる役人が甚だ少くなく、都市の財源に穴があくときは畜犬税を引上げて之を補填しやうとするのである。
斯くの如き徴税政策の誤りであること、この方法に依つては収入が増加しないこと―何となればこんな増税
の結果第一に現はれることは、一般的な畜犬の撲殺だから―、しかもこれによつて多くの畜犬家から生活の喜び、即ち温い自然と結び付くる最後の橋を奪ひとると云ふことは何等顧みられないのである。
獣医学博士クスケ氏の小さな統計表を見れば、畜犬税によつて毎年どの位多額の金を徴収して居るか、そしてこれを如何に多様の目的の為に使用して居るかと云ふことが判る。
そして蕃殖者及畜犬家の為めには何等得るところはないのである。
何となれば、處々で展覧会の為めに寄付される若干の都市賞は、市の負担とはならず、却つて、こんな催しが有する、観客其他を吸引する力から上る他の著しい収入が数倍のものとなつて再び其都市の金庫に這入つて来るからである。
だからSVは早くからアマチユア畜犬家及蕃殖者の為めにこんな絞殺的でない様な畜犬税の規則を採用せしむることに努力し、そして既に一九一二年に普魯西に於ては犬籍簿に従ふ純粋蕃殖の為めにツヴインガーシウトイエル(犬舎税)の制度を採用せしむることに成功したのである。
これに関する内務省及大蔵省令は我SVの再三の動議に依つて一九二三年に諸地方団體に回付し、更に注意を喚起せられ、爾後一九二八年には再び一層厳重に達示されたのである。
それ以来、他の若干の聯邦も亦同様の主旨によつて此制度を採用した。
これにSVは尚ほ常に英国に於ける畜犬税徴収法の如き統一した規則を採用するに至らしめんことに努力して居る。
英国に於ける畜犬税は、其受持区域に居る犬の数を詳しく知つて居る郵便配達人に依つて徴収せられるのであつて、この郵便配達は歩合を貰ふ制度なので、真に全部の犬を含む如く努力するのである。
この方法に依つて、一頭に付七馬克五○と云ふ少額の税であるにも拘らず、英国に於ては多額の税収入を得て居るのであり、そしてこの収入も獨逸に於ける如くその大部分を再び大規模な管理団體自身の入費に當てゝしまふと云ふ様なことは無いのである。
これと同様な方法を以て、SVは国家の勤務犬買上に際して、之に応ずる場合に於ける蕃殖者に有利となる規則の制定及犬の輸送賃率の低下、其他の軽減の期成に就て努力し、又依然努力を続けて居る。

フォン・シュテファニッツ記 有坂光威訳「SVの今昔」より 昭和9年