第二期計画

帝國ノ犬達-歩兵学校
大正10年6月、歩兵学校が公表した軍用犬資料より。


大正10年2月の時点では、保有頭数が8頭に戻っています。
計画途中にはセッター1頭の寄贈も受けました。

第二期計画目的
国軍に採用すべき軍用犬使用の根本方針として次の二問題を解決し、傍ら訓練及馴致に関する研究を継続するにあり。
1.軍用犬に課すべき役務及び如何なる戦況に於て使用するを本則とするや。
2.軍用犬の編成及之を戦闘部隊に配属する方法如何。

一、現在収容犬数 

大正十年二月

【獨逸番羊犬】四頭 
恵智號、恵須號、レオ號(牡)、タンク號(性別不明)。2頭は新たに借用した犬です。
【獨逸ポインター】一頭 
三保号
【雑種犬】一頭 
不二号
【樺太犬】二頭 
四郎号、九郎号 

ニ、演習課目及其成績
第一、伝令犬
1.恵智號(獨逸番羊犬牡)
伝令演習をなしたる外、送(受)信所に停止する時間の延長に慣れしむる事を目的として、演習せり。
之が初めに於ては距離を減じ、五百米のニ地に於て約五分間停止せしめ、其確實となるに従ひ漸次に其距離と時間とを増大し、中間には約七百米にして十五分間、日本(原文ママ)に於ては、約一千米の距離にて二十五分間停止せしめ、確実に伝令の勤務に服するを得たり。
演習の一例左の如し
距離一千米、一地点停止時間二十五分間。
第一回 経過時間 二分三十秒 
第二回 右同 三分二十秒
第三回 右同 三分
第四回 右同 二分五十秒

2.三保號(獨逸ポインター牝)
病気の為演習中止中なりしが、十七日に至り全快せしを以て伝令演習を実施し、五十米のニ地間を往復するに至れり。
但し、本犬は其猟犬種たる特性上、将来の発達は覚束なきものと認む。

3.レヲ號(獨逸番羊犬牡)
課目 左側伴行 日数六日(索革ヲ附ス) 自一月六日 至一月十一日 
課目 左側伴行 日数六日(索革ヲ附ス) 自一月十二日 至一月十八日 
課目 正座 日数七日 自一月十九日 至一月二十五日
課目 正座継続 日数六日 自一月二十六日 至一月三十一日
課目 伏臥 日数八日 自二月一日 至二月十一日
四、五、六、三日間病休。
課目 伏臥継続 日数十日 自二月十二日 至二月二十四日
十五日、元気不足の為中止。
課目 行進中伏臥 日数三日 自二月二十五日 至二月二十七日
本犬は性質怜悧にして、理解力に富み、沈着なる為、訓練の進歩程度目下の處良好なり。

・タンク號(獨逸番羊犬)
教育表略。

第二、輓曳犬
1.不二號(雑種犬)
先月に引続き輓曳演習を実施したるも、本犬は其性質怜悧ならざるを以て、現在の程度以上に進歩せしむる事能はざるものの如く、将来研究上の価値なきを以て、廃犬としたき希望なり。

2.恵須號(獨逸番羊犬牝)
先月に引続き輓曳演習を実施す。別に記すべきものなし。

3.四郎號(樺太犬牡 新規購入)
教育表略。

・九郎號(樺太犬 新規購入)
病死。

第三、衛生状態
一、樺太犬九郎號は本月ニ日午前ニ時発病し、三日午前五時三十分死す。解剖の結果膀胱炎と判定す。
ニ、三保号は先月二十五日発病し、本月二十七日全快せり。
三、其他は良好なり。

研究経過の概要 
第ニ期に於ては獨逸番羊犬ニ頭を借用し、一頭寄贈を受けたる外、樺太犬ニ頭、秋田犬二頭を購買したるも、樺太犬一頭は病死したるを以て、目下学校に有する犬は十一頭なり。
逐次伝令輓曳用として訓練したるも、犬の役務の適不適を判定するに及び、分業的に訓練し、獨逸番羊犬は伝令用に、樺太犬、雑種犬は輓曳用に訓練し、本年の甲種学生野営演習に獨逸番羊犬二頭を初めて伝令用として参加せしめ、相當の効果を挙げ得たり。

現時迄に研究し得たる事項
軍用犬研究の目的は、前述の如く三期に分ち詳細に規定したるも、経費僅少にして所定の犬を得る能はざる為、充分に其目的を達するを得ずして、功労相伴はざるものありしも、左記事項に就ては概ね研究する事を得たり。
1.所要訓練日数
軍用犬の所要の訓練日数は、犬の性質及能力に大なる関係を有するを以て、一定する能はざるも、能力中等の犬なれば、伝令用として概ね三ヶ月、輓曳用としてニ、三ケ月を要す。

2.犬の役務の適不適
内地各地に飼養せらるる雑種犬(本邦に飼養せらるゝ犬の大部分)は、輓曳用として使用し得るも伝令勤務に服せしむるを得ず。
優良なる猟犬として賞揚せらるゝセッター種、ポインター種及秋田犬は軍用に適せず。
獨逸番羊犬は軍用犬として良好なる種族と認む。
樺太犬は伝令勤務に使用し得ざるも、輓曳用として最も適當なり。

3.犬の能力
獨逸番羊犬は伝令勤務に服し、一吉米を三乃至五分の速度を以て、四吉米内外の距離を確実に往復通信し得。
樺太犬並雑種犬の強健なるものは、平坦堅硬なる道路に於て、概ね十一、ニ貫の貨物を搬送し、日々十里内外の行軍に連続耐ゆる事を得。

将来に関する意見
當校に於ける研究の経過、成績前述の如く外国犬種中優良なるものは軍用として諸般の役務に堪ゆる事は、欧州各国之を有利に使用せる事例を裏書せるの外、本邦に於て求め得べき犬は、其大多数を占むる雑種なると、純血日本種たるとを問はず能力不十分にして、軍用に適せざるを経験せり。
故に将来軍用犬を帝国軍隊に採用するの能否は、一に懸りて能力十分なる外国犬種の蒐集、補充並に本邦に於ける犬種の改良増殖の問題に帰着すべく軍用犬研究の必要の有無は国軍に軍用犬を採用すべきや、否やに関するを以て、国軍として、先づ此根本問題を解決する必要ありと認む。



(第3期計画に続く)