この部隊は、朝が早かった。
午前四時三十分に、「起床ッ!」と声がかかる。点呼はない。
兵隊は、寝台から飛び降りるなり、駆け足で犬舎に馳せつけるのである。
軍犬たちは、もうとっくに起きていて、じれて金網に体をこすりつけながら、めいめいの気注け者(※きつけしゃ)を待っている。
気注け者ーとは軍犬兵のことである。
兵隊たちは、まだ眠いので、ぼそっとした寝呆けづらや、眼やにを薄汚くくっつけているのや、不機嫌そうなのがいるが、主人を迎えて軍犬たちは、はしゃぎ立ち、ひとしきり、歓声をあげる。

棟田博著「軍犬一等兵」より