「月刊満洲社」の編集長、城島舟禮の体験談より。

 

 

先達つて私が大連へ發つ晩、どこからともなく支那犬の仔犬が戸惑ひしてやつて來、キヤン〃鳴いて玄関を去らうとしないのに手こずり、馬車夫を呼んで來て十銭やるから遠方に捨てゝくれと頼んだら、十五銭呉れ、自分の家まで連れて行くからといふ。

それならと十五銭やつて馬車に乗せるところまで見届け、やれ〃と部屋に帰ると、ものの三分もたたぬうちにもうキヤンキヤンいつて帰つて來た。馬車夫の野郎一ぱい喰はせやがつた。

仕方がないから私が發つ時、タクシーに乗せて行つて驛前で捨てたが、妙に氣になつて急行券を買つてから廣場に出てみたら、どこへ行つたかもう影もかたちも見えなかつた。

生きものを捨てるなんて、氣持の悪るいものだ。

 

城島舟禮「身邊雑記」より 昭和13年