じっとこちらを見つめる目に、私は気付く。

その瞬間、目はふっと風が吹いたように消える。

目が発していた言葉だけが私の頭の中に貼り付いている。


なんで逃げたの。なんで逃げたの。


ぐるりぐるりと頭の中で回り続ける。

その言葉だけが私の頭の中を支配していく。






なんで逃げたの、日向くんの死体から。







バッと勢いよく後ろを振り向き、反射的に武器を構える。


しかしそこに広がるのは長い長い廊下だけで、誰も立っていなかった。

どくんどくんと心臓が自分でも恐ろしいほど早いテンポを刻んでいる。


いやだなあ、

どうしちゃったんだろう、自分。


ここにもし誰かいたなら、私はきっとかははと笑いながらそう言うのだろう。


かはは、と小さく声に出して笑ってみる。

じんわりと虚しさが胸に染みる。



なんで逃げたの、日向くんの死体から。



やまびこのように繰り返される言葉。



やけに輪郭をはっきりと帯びた声だった。

首元からボソリと聞こえた気がしたが、幻聴だったのだろうか。

だとしたら、私は本当におかしくなってしまったのだろう。


武器を持つ手が馬鹿みたいに震えていて、かはは、ともう一度小さく笑った。





ああ、まただ。


また、目が。





日向くんの目が、こっちを見てる。










遥香から聞いた場所へと祥は足を運んだ。

しかし、3-3の教室は誰もおらず、空っぽだった。


まあ、期待なんてしてないけどね。

友人を殺そうとしている人に、友人のいる場所を教えるなんて。



あまりにも嘘っぽくて、思わず笑ってしまった。



がらりとした教室を見渡しながら、祥は長い溜息を吐いた。


さて、これからどうしようか。



あいつは誰とでも仲良くしてたから、あいつの死を望んでいるやつなんていないだろう。

だとすれば、これから誰に聞いたとしても、無駄か。

俺は悪い人だって、くっきり認識されてるもんな。



じゃあ、うん、そうだな。




祥はスタンガンをバチバチと鳴らすと、教室から出た。



校舎を歩きまわれば、きっとあいつにも会えるだろう。

雑魚がいれば殺せばいいんだ、






ぴたり、と祥の足が止まる。






ああ、そうか。


あいつ以外の全員をまず殺そう。


この馬鹿でかい校舎に残るのは、俺とあいつだけ。


脅えるあいつをいたぶっていたぶっていたぶっていたぶっていたぶっていたぶって、最後の最後に首をしめて殺そう。


なんて素敵なんだろう。

考えるだけで身震いがする。



恍惚とした表情のまま、祥はゆっくりと隣の教室へと向かった。