1993年1月13日、山形県新庄市の明倫中学校体育館用具室で1年生の男子生徒がマットの中に逆さになった状態で死亡しているのが発見された。5日後に関与していると思われる2年生男子生徒7人が補導および逮捕となった。

事件の発覚

1993年1月13日夕方、山形県新庄市に住む中学1年生の少年が塾に行く時間になっても帰ってこなかった。彼は几帳面な性格だったので、親はそんなことは有り得ないと思った。両親は近所を探すが見当たらず、部活の顧問に電話を入れると「今日は部活に出ていません」と返事が返ってきた。顧問は学校に伝えると言って電話を切った。

その日の夜8時過ぎ、学校から「彼が見つかりました」と連絡があった。中学校に残っていた教員と小学校の生徒とバドミントン部の生徒の捜索によって発見されたが、彼はマット用具室の中で亡くなっていた。マットに巻かれた状態で逆さ吊りにされており、室内は真っ暗だった。

父親が学校に行くと、息子は無残にも顔面がうっ血して2倍にも膨れ上がり、頭部は判別がつかないほど腫れあがっていた。父親は鼻筋と口元を確認したあと息子であることを確信し、「誰がやったんだお前だろう!」と教師のひとりに掴みかかった。父はこの時の行動を興奮のあまり覚えていない。

司法解剖の結果、死因は胸部圧迫による窒息死と判明。顔面は全体的にうっ血し、上半身にはアザがあった。1月17日に葬儀が行われ、家族の意向で彼が尊敬していた手塚治虫の「鉄腕アトム」の主題歌が流された...。

なぜ死んでしまったのか

彼の死には7人の少年が関わっている。主犯のAの話をもとにまとめてみると、

Aが彼のことを知ったのは友達から「一発芸をしてみんなを笑わせるやつがいる」と聞いたからである。その後、校舎昇降口から上級生が彼に一発芸をさせているのを見るようになった。Aは当初「好きでやっているもの」と思っていたが、次第に嫌々やらされているものと分かってきた。

彼が元々標準語を話す金持ちの子だという田舎特有の村八分的な妬みからイジメはエスカレートしていく。性格が大人しくて無理やりでも一発芸をやってくれる、反抗的な態度もなく、黙って言いなりになっている彼に目をつけた。

Aは前年9月頃から学年がひとつ下の彼をいじめるようになった。Aと友人の2人で教室棟階段に彼を呼び出して一発芸をさせた。その時、ふたりで彼の肩と背中を殴った。その時、彼は反抗的な態度はなく、担任に言いつけることもなかった。この頃、Aは体育館のマット用具室のマットに頭を突っ込む遊びを考えた。ただ、思ったより窮屈で呼吸がしづらく、怖くなって友達に救助してもらったという。

10月に入ると、グループで彼を殴る蹴るの暴力をするようになった。

11月頃、Aは仲間8人で部活中の彼を呼び出してマット用具室に押し込めて、一発芸を強要している。しかし、彼がなかなか応じなかったので全員で袋叩きをした。

数日後にも、マット用具室に呼び出して芸を強要した。彼はラケットとピンポン玉を持っていたのでAはピンポン玉を取り上げて「一発芸をしたら返してやるからやれよ」と言った。

一種の殺人事件

そして事件が起こった1993年1月13日、2年生サッカー部のBとバドミントン部のCが彼に芸をさせるために用具室の前に連れてきていたのでAは様子を見に行った。他にもバスケ部のD、野球部のE、1年生卓球部のF、サッカー部のGがいた。BとCが芸を強要したが「えー」と言い、彼は拒否した。

Aは「むかつく」と怒鳴り、Eが彼を殴って大人しくさせたあと、7人がかりで体育館にいる生徒にバレないように用具室に監禁した。Aは用具室で遊んでいたので室内の様子をよく知っていた。

室内でCが芸を再度強要すると「えーできません」と彼が言ったので、Aが彼を呼びつけて顔面を殴り付けた。Bが「足を踏まれた」と因縁をつけ、彼の足を蹴りあげた。Cがその時に背中を殴って加勢。同級生のFも「なぜ先輩の言うことが聞けないのか」と顔と膝を殴った。

許してくださいと謝る彼に対し、一発芸をさせるのをあきらめ一方的に「生意気」「むかつくやつだ」とリンチを加えていく。

「助けてください」と泣きながら抵抗する彼に対して暴力は絶え間なく続き、プロレス技をかけてCはヘッドロックをしながら何発も殴り付けた。

「マットに入れてやろう」Aはマットの苦しみを彼にも味合わせてやろうと提案し、CとFが彼を持ち上げて、マットの上のBが引っ張りあげた。そのまま足からマットに押し込んだ。「穴の中でそうしていろ」とBが言うと、彼は胸から上が出ていたのではい上がろうとした。その時に押し込まれるのを抵抗したので数発顔面を殴られた。

「生意気だから逆さにしよう」Aがそう言うと、Cは彼の頭を下の方にしてBとDとFと協力してマットの隙間に押し込んだ。7人は「許してください」と穴の中から泣きながら訴える彼を無視して体育館を出た。Aは「誰かが助けるだろう」と思い、気に留めなかった。

死後の学校側の対応と7人の中学生たち

17日、Aが警察に自供。6人の共犯者を挙げ、翌日に傷害監禁致死で7人が逮捕された。

自供をはじめる7人だが、Eは25日の事情聴取で「今まで言ったことは全て嘘」「僕は彼に何もしていない」と全面的に否認した。

Eが否認しはじめたことで他の共犯も否認をしはじめた。さらに加害者側の弁護士は「一人遊びによる事故死」とし、当日に体育館にいた他の生徒も「知らない」と非協力的だった。

死後、彼の家の塀には「殺してやる」と落書きをされ、「あそこの育て方なら死んで当然」などの誹謗中傷、彼の兄は「弟が殺されてよく平気で外を歩けるな」、妹は「兄ちゃん殺されてうれしいか」と言われた。


事件発覚から少年7人の親から正式な謝罪はいまだない...。