第6話 「命がけの逃避行 (中編)」

 

タケルは宗佑からの束縛を受けていた美知留を外に連れ出し、タクシーで逃走。

彼はとりあえず彼女を自分のバイト先にかくまうことにした。

「今日は休みだから今夜はここにいた方がいい。毛布もあるし、一晩くらいなら何とかなる」

「....ありがとう」

「すぐにシェアハウスに戻るのは危険だからな」

彼女に毛布を肩にかけてあげ、コーヒーを入れる。

「美知留ちゃんを守ってあげられる方法は、いくらでもあるんだから」

彼の顔を見て、軽くうなずいた。

「明日、病院に行こう。医者に診断書をもらって、虐待されたってことを証明したら、アイツを遠ざける立派な理由になる」

彼女はしばらく考え込んで....

「あの、このことは瑠可にはまだ言わないでほしいの。心配させたくないから」

「わかった。約束する」

 

翌日、瑠可は2度目のカウンセリングへ。医師から質問される。

「ご家族にもまだ打ち明けられたことはないのですか?」

「父は、私が普通に結婚して幸せになるのを心から望んでいるんです。それは言われなくても分かります。絶対に本当のことを言ってしまったら....」

「でも、そのぶんあなたに苦しみが溜まっていきますよね?誰か1人でも気持ちを打ち明けられる人がいたら、ご家族でなくても、友人でもかまわないです。本当のあなたのことを知っても、驚かずに受け入れてくれる人がいたら、話してみるのもいいかもしれませんね」

 

シェアハウスではタケルがリビングでDVについてパソコンで調べていた。そこへ電話が。

「もしもし」

しかし、応答はなく、ずっと無言電話が続いている。しかも公衆電話からかかっているので、誰なのかわからない。電話の向うで子供のはしゃぎ声が聞こえている。

「....姉さん」

彼は受話器をすかさず切った。

そこに瑠可も帰ってきた。彼は動揺をおさえながら優しく家に迎え入れる。

「タケル?」

「うん?」

「ううん。なんでもない」

「そっか。コーヒー入れようか」

 

翌日、彼は美知留を病院に連れて行き、診断書を書いてもらった。

彼は1人シェアハウスに戻り、リビングのソファーに腰掛けた時、大きな物音がした。ドアを強く叩く音が、部屋中に響き渡る。誰なのか見当がついているので、ドアから出るのは危険だと考え、ベランダから玄関先を覗き込むと....

「美知留はどこですか?」

スーツ姿の宗佑が立っていた。

「は?ここにはいませんけど」

「美知留をどこに隠した!俺の美知留を返せ!」

ものすごい剣幕で怒鳴りつける。

「あなたは、彼女に暴力を振るったんです。そして監視をして、家に縛りつけた!」

「監視だなんて人聞きの悪い。どこにそんな証拠があるんですか?」

「それは全て法律に違反する行為です。もしこれ以上あなたが、彼女に近づいて何か強要したら、警察を呼びますよ」

「犯罪?」

「あなたの勤め先にも訴え出ます。彼女を絶対に渡す訳にはいきません、帰ってください!」

 

美知留はタケルの店の手伝いをすることに。眼帯を取ると、傷が目立たなくなっていた。

「だいぶ元気になったな。傷もだいぶマシになった」

「そう?」

「うん。シェアハウスに戻ろうか」

「え?」

「みんなもきっと喜ぶと思うし」

 

一緒に帰宅。みんなも帰ってきていた。

「みんな、こっち見てほしいんだよね。帰ってきたの俺だけじゃないんだ。....美知留ちゃんも」

玄関から美知留が入ってきた。それに対して瑠可は複雑な表情をしている。

「美知留ちゃん!帰ってきたんだ。おかえり」 エリとオグリンが優しく迎え入れる。

瑠可は美知留の顔を見ようとしない。それに美知留が気づいた。

「美知留ちゃんの美容院に住所聞いて、行ってみたんだ。そしたら、四六時中ずっと彼に監視されてて、家からも1歩も出れてなかったみたいでヒドイことになってた。もう見てられなくて、ちょっと強引だけど連れてきたわけ」

「そんなことないよ、当然だよ。お手柄だね、タケル」

「でも、ここも危ないかも。だってアイツはここの場所知ってるんだし、この前みたいに、連れ戻しにくるかも」

オグリンが心配そうな表情でこう話してきたので...

「その時はみんなで美知留ちゃんを守るだけだ。いいよな?」

「もちろん。あんなヤツはみんなでコテンパンにすりゃいいんだよ!」

「そうだな、4人なら何とかなるな」

「瑠可?」

1人だけそっぽを向いているので声をかけた。しかし、振り向かずに黙り込んでいる。

「瑠可?いいよな?」

「....うん。まあ、いいけど」

「ありがとう。みなさん、またお世話になります!」

「そんなしおらしいこと言わないの」 

「せっかくだから、再会を祝してみんなで乾杯だ!」

「いいね!デパ地下で買ったワインあるから、それ開けよう!」

「そうだね。飲もう!美知留ちゃんも座りな」

美知留が瑠可の横に座った。

「ごめん、先寝るわ」

瑠可が席を立ち、自分の部屋に戻ろうとした。

「え?せっかく美知留ちゃんが帰ってきたのに?」

「うん。おやすみ」

 

部屋に戻り、1人になった彼女の顔は終始複雑な表情だった。

 

どらま・のーと