即戦力人材と企業をつなぐ転職サイト「BIZREACH(ビズリーチ)」のCM

テレビでよく見かけるが、なにか違和感がある。

「なに?うちのエースが?」
「引き抜かれただと!?」
「社内に代わりの人材、いない!」
「人事に言っても、すぐに採用は厳しい」
「なんとかしなくちゃ」
「いったい、どう探せばいいんだ!?」

ここでショートヘアーの女優・吉谷彩子がしたり顔で

人差し指を立て決めセリフを言い放つ。
「そんな時は、現場が、直接、ビズリー――チ!」


「エースが引き抜かれた」
ということは、
「この会社よりも厚待遇で他社がエースをスカウトした」
「この会社よりもやりがいがあると判断してエースが退社した」
ってことだよね。

エースの立場からすると、
「この会社の待遇に満足していない、実力が認めてもらっていない、

 将来性が見い出せない」
という会社への不満と、同時に
「転職しても、新しい環境でうまくやれるのか?働き甲斐があるのか?」
という不安や迷い、葛藤もあったはず。

また、エースはおそらく神隠しのように忽然と辞めたのではなく、

前から上司や同僚にそれとなく悩みを相談していたはずで、
会社側は慰留、引き留めることが出来なかったのだと思う。

会社側は
「もしかしたらエースが辞めるかもしれない」
という可能性だけでなく、組織を維持、成長させるために

エースの代役候補の人選や養成を早い段階で対策が出来たはずだ。

それがエースに辞められてアタフタと慌てる会社って…?
そんな会社に将来性がある?

 

ビズリーチの登録者数(スカウト可能会員)は

190万人以上(2023年1月末時点)

で、
①プラチナスカウト
  国内初の、優良企業と厳正な審査をクリアしたヘッドハンターが

  職務経歴書を見て直接スカウト
②厳選された企業やヘッドハンター
  外資・日系大手などの優良企業、厳正な審査を通過したヘッドハンターからの

  スカウト
とか書いてあるのだけど、
HPでは
「ビズリーチに登録して求人を見る」
をクリックしろ、とやたら出てくるので、
自分で登録するなら「スカウト」とか「ヘッドハンター」っていったいなに?


このCMを見るたびに、
「社員を大事にしない、働き甲斐がなく、

 頑張っても評価もされない居心地が悪い会社は、
 転職サイトで中途採用したとしても、

 実力がある人ほど居心地が悪いと、またすぐ辞めちゃうんじゃないの?」
「転職サイトって、登録者の生きがい、やりがい、達成感や

 採用する会社側の切実な人材の要望には無関心で、

 単にチープな斡旋(あっせん)的紹介業なだけでしょ?」
みたいな違和感を感じてしまうのだ。


半世紀近く前、私の学生当時は
日本の企業はほとんどが終身雇用の年功序列という
「年齢が高く勤続年数が長い従業員ほど好待遇になる人事評価制度」
で、会社ってそんなもんだと特に違和感は感じなかった。

会社は新卒採用が一般的であり、

終身雇用によって雇用が安定していることは、

それだけで労働者にとって大きなメリットだった。


また、年功序列によって給与や職位の向上が約束されているならば、

たとえ新卒入社時には給与が安くても、将来の生活の安定が期待できたのだ。

私が高校に入学した1973年(昭和48年)は、

1ドル=360円と固定されていたのが変動相場制になり、
秋には第4次中東戦争が勃発、

OPEC(石油輸出国機構)は原油価格を70%も引き上げた。


物価はたちまち高騰し「狂乱物価」とも呼ばれるインフレが加速、

国民は「高くなる前にモノを買わなくては」と買いだめに走り、
今からすると不思議だけど、都会では群集心理で

トイレットペーパーなど生活必需品の品切れが相次いだ。

朝鮮戦争特需によって経済が強固なものとなった後の

1955年~1973年の第1次オイルショックまでの約19年間、
日本は実質経済成長率が10%程度の成長率を続け、

飛躍的かつ継続的に経済規模が拡大した高度経済成長期だった。

政府はインフレを抑え込もうと金利を引き下げたが景気の下振れにつながり、
日本経済は戦後初めてマイナス成長に転じてしまった。

また、高度経済成長期の弊害として
①熊本県水俣市で発生したメチル水銀中毒「水俣病」
②富山県神通川流域で発生したカドミウムを原因とする「イタイイタイ病」
③三重県四日市市の石油コンビナート排煙による「四日市市ぜんそく」
④新潟県阿賀野川流域で発生した「第二水俣病」
といった「4大公害病」も深刻な社会問題となった。

私が大学を卒業した1979年(昭和54年)には第2次オイルショックの発生、
世界的不況の影響もあり日本経済は低成長時代へ移行し、
1985年のバブル景気に向かうのだけど、
終身雇用の年功序列も、低成長時代で給料も上がらなくなり、
成果主義の年俸制や成果配分方式とかを導入する企業が出始めた時期でもある。

それでも、今と違って
「仕事を選ばなければ、何とか生活していける」
という楽観的、楽天的な生き方が社会に通用する良い時代でもあった。

そのため、当時は転職は一種の負け組的な見方がされ、
中途採用募集の面接では
「なぜ辞めたのか?問題を起こしたのか?」
を疑われ、面接担当者は元の会社の総務部に電話を入れ、

退職理由を聞くのが常態化していた。

また、転職すると今までよりキャリアアップできるのはマレで、
格下の会社で待遇も落ちるのがふつうだった。


バブルが崩壊後の「失われた30年」で日本は先進国から転落し、

非正規雇用も大量に増え、経済の低迷や景気の横ばいが続いたことで

賃金はほとんど上がらない時代が続いた。

年功序列式の会社では成果主義制度のように仕事の成果に対する評価は低いため、

新入社員や若手社員は、年長者に比べて給与が低くなる。


そのため、どんなに頑張っても評価が上がらない状況に

若手社員や中堅社員が不公平感を感じて、

仕事へのモチベーションが低下した結果、離職・転職する人が増えてきた。

半世紀前とは違って少子化もあり、

「売り手市場」「人手不足」などが叫ばれ、

転職でキャリアアップしたい人が増え、
転職はいまや「必ずしもマイナスではない」どころか

転職は欧米並みに当たり前の時代になりつつあるのだ。

だからといって、誰もが
「やりがいのある仕事ができて厚待遇」
の会社に転職できるとは限らない。

会社を辞める理由は、
「頑張っているのに評価してもらえない」
「給料が低い」
「上司、同僚、後輩との人間関係がイヤだ」
「上司が嫌いだ」
「上司のパワハラ、セクハラがイヤだ」
「長時間勤務で休みも取れない」
「サービス残業が長くボーナスも少ない」
「社長がワンマンすぎる」
「社風が合わない」
などネガティブで後ろ向きな悩みだとか、
仕事がうまくいかない時に自分の非を認めず周りの人や環境のせいにする人や、
ろくすっぽ仕事が出来ないくせに、あるいは遅刻・早退・欠勤が多いくせに、
プライドと自己評価だけが異常に高い人は、転職しても成功しないと思うよ。

こういう人は
「不満を持つ」→「転職エージェントに相談する」→

「オススメされた会社に安易に入る」→「また不満を持って転職活動を始める」
といった安易な転職を繰り返し、

やがて履歴書の職歴も書ききれないほど多くなり
アリ地獄的に墜落していく可能性は高いと思う。

私も一時はキャリアウーマンだった時代があるけど、
仕事仲間で会社や上司のグチ話をグズグズ話す人がいて、
そのグダ話を聞いてるだけでも時間のムダでうんざりだったことがある。

中途採用する側の立場であれば、
「現職がイヤだから環境を変えたい」
「周囲が転職をしているから、何となく」
といった不満だらけの人よりも
「現職で活躍して実績を上げているけれど、

 その地位を捨ててでも覚悟を決めて入社したい」
とポジティブに話してくれる人のほうが魅力的だよね。

社内の人間関係でモメて干されたり、居場所がなかったりする人材は、

転職しても居場所はないと思うよ。

転職サイトの宣伝や、人材会社が製作した求人広告では
「残業ほとんどなし」
「アットホームな社風」
などがある。

これらの広告はまさしく
「遅くまで働きたくない」
「社風が合わない」
などと、現職に不満を持っている人に刺さりやすい文言になっているのだ。

転職にはリスクが付きまとう。
「やりたい仕事、やりがいがある仕事ができるようになって、

 同僚との人間関係も良好になって、年収も上がって、早く帰れて……」
などと、何もかもバラ色でうまくいく保証なんかどこにもない。

転職サイトの宣伝と中途採用募集企業の募集要項を信じて、ばく然と
「年収が上がりそうだ」
「同僚は良い人ばかりだろう」
などと思い込んで転職し、後からダチョウ倶楽部のネタ
「聞いていないよ!」
とか
「こんなはずじゃなかった!」
と後から文句を言うのだったら大人げないよね。