Aガスを継続するという事になった
するとBガスの支店長が今度は慌てて
うちに電話して来て「近いうち伺います」と言い出した。
そしてそれが今日だった。
僕は「来てもらってももう 代えませんよ」と
最初に断った。
「それでも事情を伺いに行きたい」という。
行きがかり上仕方がないかなと来させて
あげる事にした。
そして時間が迫ると
いつものオジサンKが様子を見に来た。
Bガスから「一緒に立ち会ってくれ」と
お願いされているのだ。
所長が来るまでの時間彼の説教が始まった。
「君の最初の対応がおかしい」という。
「君とお父さんが説明を聞いて納得して
ガス供給契約に署名捺印したから計画が
進んでいるんだよ」と。
今更ひっくり返すなと言いたげだ。
僕も「その点については平謝りです」と
頭を下げた。
なおもこちらの落ち度を指摘したがるが
「ごもっともです。反省します」と言い続けた。
「しかし今回の話し合いは来てもらいたくないですね」
そう言うと急に「俺に帰れって言うのか!」と怒り始めた。
めんどくさい人だなと思いながら
「いてもらってもいいんですけど」と
こちらもトーンを下げる
そのうちBガスの支店長がやって来た。
「ガスの切り替えの件なんですけど
やはりAガスを継続します」ときっぱり言う。
立会人のオジサンKが「はっきり言ってやれ」と言った通りに。
まあ、僕がはっきり言えないと思っていたんだと思うが
僕は実はそう言う人間じゃない。
「今までそちらの言葉を信じてうちも手はずを
整えているので」と言い始めたが「それは
Aガスさんとのやり取りでお願いします」という。
「お金の問題なら」と言う感じで話し始めたから
「お金の問題じゃないんです」と答える。
「うちにBガスさんを引っ張って来たのはX氏ですが
昔事業で失敗して作った負債を
うちに借金させてそれで返済してそのままいなくなった
そう言う過去のいきさつがあります。」
「うちがBガスに乗り換えると聞いて
Aガスさんが合わてふためいてやってきた時に
うちが金額的に提示を受けていると思って
うちはこれだけ用意しますと見せてくれた金額で
僕は驚きました。
この金額は何なの?と。」
「X氏は入居者のガス料金を下げて
うちのアパートの居住者の居住性を高めるために
やって来たんで、自分は手弁当で来ているだけだから
金銭的報酬は受けないと言っていました。
そう言う事なら協力しようと思い、
料金が高いと言われるAガスを
代える決心をしたのです。」
「しかし裏でこれだけの大金が動くと言う事は
これは話が違うなと
さすがに疎い僕でも気づかされたんです。」
「そしてそのお金は不動産事業をやっているうちが
もらうべきだよなと。」
Bガス支店長は
「そう言う取り決めはX氏との間でしていません」
と言い始めたが
僕はそれは信用できないしもうどうでもいいんです。
うちの者が疑いを抱いてしまったという事が大事で
もうこの話を進めると
僕がみんなから責められることになります」
「最初はBガスに変えると頑強に主張したんですよ
純粋に入居者のガス料金を下げるために。
それはKさんに聞いてもらってもいいです。
しかしですよ。その金額の話が出た途端
もうそうする気持ちが無くなりました。
ここで抵抗してBガスに乗り換えたら
X氏の懐にチャリーンだよなと。」
X氏はうちがらみで金儲けしようというのなら
過去うちが代わって弁済したウン百万円を
返してからにしてくれと
それ以外にだって彼が絡んで
口座に残金が無くてどうしようかと
家族みんなで震えたことがあったのだから。」
「これはうちの人間の総意です」
ここまで言うと支店長は返す言葉が無かった。
一緒に彼を助けるためにのこのこやって来たオジサンKも
自分が過去X氏と一緒に噛んでいたことだから
ぐうの音も出なかった。
「X氏については個人的には嫌な人じゃないです。
それはうちの父も同じだと思います。
だから最初は彼の持ってきた提案にも
乗ろうとしたんです。
ただうちとの間では過去のいきさつがあって
ああいう状況に陥ったから
そう言う事をやっちゃったんでしょう。
だからなんのいきさつもなければ
他に彼に対してうちと同じような事を
言う人はいないと思います。」
「BガスさんもAガスさんもどちらも
仕事を一生懸命になされていて頭が下がります。
Aガスさんを断ろうと思ったときも
なんの不満もないのになと心苦しかったし
Bさんをお断りすると決めた時も
特にこれと言っていい加減な仕事をする
会社じゃないだろうと本当に心苦しい思いです。」
「今回はそちらに選定できなくて
申し訳ありませんでした」と
立ち上がって深々と頭を下げた。
Kさんには
「今回はどうしてもX氏の悪い部分を
指摘しなくちゃならないから
聞いていてほしくなかったんですよね」
と謝っておく。
「X君にはちゃんとそう言っておいた方がいいよ」
だそうだ。