お母さまの苦痛は激しいと思います。
この苦痛を緩和するために
鎮痛剤の量を増やそうと思うのですが。
それには親族の方の二人の同意が必要です。
父親は仕入れに行っている。
お兄ちゃん一緒に行ってと
妹が電話してきた。
僕もこの家の長男だ
こんな時に行かねばならないのは
当たり前だ。
大学病院に向かう前
涙があふれて来た。
自力回復のために抑えて来た
鎮痛剤の量を増やすと言うのが
どういうことかわかっている。
意識のあるうちに会えるかどうか
頼んでみよう。
談話室で看護士と医者の話を聞く。
若いお医者さんんだなと思った。
「入院されて集中治療室におられる以上
何かあったらそのような医療措置を施します
ただお母様の場合年齢が高いので
回復の望みはほとんどないです」と言う事だった。
今は自力回復のために鎮痛剤を少なくしているのですが
このまま苦痛を長引かせるのはお母様に取って
どうなのでしょうか」と言う事だった。
2人でそれを聞いて
もう仕方がないね
ここまで頑張ったんだからね
母親の苦しみを緩和させてもらう事にした。
ここで「まだ意識のあるうちに
会わせてもらえませんか?」とお願いしてみた。
コロナウイルスを持ち込まれたら大変だからだろう
ワクチン接種を受けたかどうか、回数と日付、最近の海外渡航歴は
どうか、家族に調子悪い人はいないか詳細に記入させられた。
妹は「お兄ちゃんから先に行って」と頼んでくる。
来てすぐに面会できるとは思っても見なかったが
ここで僕が来たのもそれが順番だと思った。
「言う事を整理する時間が欲しい?
もう少し後にしてもらう?」
「いや、今行く」
面会の準備ができるまでラウンジで待った。
そして看護師さんがついにやってきた。
手を入念に洗いビニール製の無菌割烹着を着た。
更に眼鏡の上からゴーグルを装着させられて
看護師さんの誘導に従って母親に会いに行く。
昨日タブレットで見た画像では意外に元気そうで
いつもの目で薄めを開けて瞬きしていたのに
今日は様子が違った。
口の回りにこびりついた血液が
ただならぬ出来事があったことを物語っていた。
面会時間は意外に長かった。
一人一人順番にベッドのそばに行く。
お母さんに「今までありがとうね」と心からお礼を言った。
「僕が交通事故に遭って死にそうだった時、
それからも病院に連れて行ってくれてありがとうね
僕が一生懸命勉強したのはお母さんのためだったんだよ
ありがとうね。」
「かっちゃんは偏差値も上がって来て成績もよくなってきたよ
とても頑張ってるよ」
そう言って孫の近況も知らせてやる。
口から出まかせだがついてもいい嘘だ。
「2親等までの親族の方なら大人数にならない限り
面会を認めます」と言ってくれたので
家に帰って仕入れから帰ってきた父親に
状況を話す。
父親はすぐに行く事になった。
そしてもう一人
孫の克征にも「行くか?」と確認する。
いつもとは様子が違うお父さんの問いかけに
すぐに行く準備をしてくれた。
あまり話す事もなかったかもしれないなと思ったけど
かなり長い時間面会していたそうだ。
そして、かっちゃんの声に最後に微笑んでくれたという。
息子くんに僕は話す。
「面会に行ってくれてありがとう」
「すごく優しいお母さんだったよ」と。
そして心から謝った
「お前にも優しいお母さんを
作ってやりたかったけどごめんな。
あの人でも僕がしっかり見ているから
大丈夫だと思ったんだよ。
でも、そうするのに失敗しちゃった以上
お前の面倒はしっかり僕が見るって
覚悟を決めてるから」
人間って不思議だ
一人の女から生まれ落ちて
まったく独立の人格になり
母親とは全く別の人間として
人生を始めて
生きて
死ぬんだ
そしてその瞬間が訪れることを
誰もがその運命から逃れられない事も
人生のある瞬間から悟るのだから。
どうしてそんなことを
大自然は命じるんだろう?
一緒に生きる事の出来た日々に感謝