実は、この日の早朝、本当にあの女を養子にしたのか本当のことを聞こうと大叔母の元に行っていた。

 

昨日、僕が大声でみんなの印象に残るように聞いたところでは「勝手にやられた」と言っていた。それを聞いて、僕は「そういう事なんだ」とホッとしたが、戸籍に入り込まれてしまったという事が事実ならどうすべきか見当がつかない。とりあえず大叔母の見解を形にしておかないといけないとテープレコーダーを持って行った。

 

あの夫婦が来ていると困る。僕は屋敷の反対側の道路に車を止めて中をうかがう。

まだ誰もいないみたいだったので警戒しながら中に入る。そして、大叔母を呼ぶとドアを開けてくれた。

 

「昨日の集まりでシズちゃんの旦那が言い始めた事について、大叔母さんはシズちゃんを養子にしたの?」と聞いてみた。

 

すると大叔母は口を開いた「そんな事しやしないよ。シズちゃんは養子に入ったと言っていたがそんな事うそだよ。こんな一大事は親戚一同に知らせるし、特に正男には真っ先に話す」という事だった。正男と言うのは僕の父親だ。

 

帰ってこのテープを父親に聞かせる。すると父親も早く手を打たないといけないし、叔母のいうことがここまでしっかりしてるのなら何とかなると意を強くしたみたいだった。

 

とにかく本当にあの女が大叔母の籍に入ったというのが本当なのか確認しないといけない。

市役所から戸籍謄本をもらうための委任状に大叔母本人の署名を貰うために出かけることになった。

 

大叔母の家に続く通路に入ると後ろからあの夫婦の車がやってきて僕らを追い越していった。

これはひと悶着ありそうだなと覚悟を決める。屋敷の前に止まった彼らの車の横に軽トラを止めて僕らは降りる。すると夫婦が近づいてきた。

 

「何しに来たんですか?」と旦那が口火を切った。

 

父親は「いや、俺の言ったことで叔母が何か誤解しているようだから誤解を解こうと思ってね」と答えた。ほんの数日前にそういう事があったのだ。うまく言い訳に使ったなと僕は思った。

 

そして旦那の前を通り過ぎる。

問題はシズちゃんだ。思った通り大叔母にべったりくっついて離れない。自分がいると父親が本当の目的を話さないと悟った彼女は大叔母のそばを一時離れた。

すると、その隙を伺って父親は委任状を出した。そして、「叔母さんの戸籍を閲覧したいから判をくれ」とお願いした。大叔母は、僕に「委任状を読んでくれ」と頼んできた。僕はシズちゃんを気にしながら小さな声で読み始めた。

 

待ってましたとばかりに彼女がするすると舞い戻って来たのは思った通りだ。

 

「ふざけた事すんじゃないよ!」

 

「お前が叔母さんの戸籍に入っちまったっていうのが本当かどうか見せてもらうだけじゃねえか」

 

「どうしてあんたなんかに見せる必要があるのよ!私は入りました。それでいいじゃん」

 

「よかないよ。叔母は知らないっていうのに、どうしてお前が入ってるんだよ!」

 

大叔母の前で怒鳴り始めた。そして父親と彼女の激しい言い争いが始まり僕は彼女に思い切り大きな音がするほどひっぱたかれた。