だんだん夕暮れが深まってきたタクナの遊歩道で、片隅の長椅子に腰かけてしばし雑談をしました。ルイスは、どうもロッシに電話をしたがっているみたいだったそうです。びりー君に彼女と話をさせたがっていたということです。


 この辺の街路樹は日本では目にしたことのない変な形の植物が植えられていたそうです。確かに棕櫚の木そっくりなのですが、その生え方が変わっていたといいます。地面に置いた直径1~2mの巨大なパイナップルの葉のところから木の幹が伸びているような形で面白いなと感じたそうです。


  1~2本ならたまにそういう木が出ることもあるでしょうが、タクナではみんなそうなっていたということです。何本か見ているうちに、あの巨大なパイナップルのような幹は地面から離れて木と一緒に上に持ち上がっていくようだと気が付きました。


 ルイスはどうやら人と待ち合わせをしていたらしかったということです。その時刻に、レストランが1階に入っているホテルのような建物の前に行くと、道の向こうから女性が歩いてきたそうでした。また、恋人か。もう、あまり驚かないが、やっぱり美人だったそうです。若干28歳でツアー会社の社長をやっているそうで、彼女も元スチュワーデスらしかったということでした。


 3人そろって近くのレストランで食事をしました。びりー君は、もう、さっきのカクテルがムカムカ来て、気が気ではなかったそうです。このままじゃ、急性アルコール中毒だ!そう思うと、びりー君はどうにも消化しきれないお酒をレストランのトイレで吐くことにしたそうです。


 もう、閉店間際の時刻なのか、広い店内には客はびりー君たちしかいなかったそうです。閑散としたトイレで、中指をのどの奥に突っ込んで、心行くまで吐き出しました。

 すると、出るは出るは、優にグラス一杯分のお酒が出てきました。口の中に出てきたカクテルのにおいに、更に吐き気を催したそうです。


 しかし、びりー君は何とかショック症状寸前の状態からは抜け出せたと一安心したということです。


 トイレを出ると、びりー君はさっきからのむかつきも無くなり、身が軽くなっていました。だあれもいない広々としたレストランにディスコミュージックが流れています。ちょうどよい。サンバが流れてきたときにステップの練習をしたということです。遠くの席でルイスと彼女は話し込んでいました。


 「ディスコへ行こう」びりー君はルイスに誘わえてディスコに踊りに行ったそうです。繁華街に一目でそれとわかるような建物ではなく、あたりの住宅に紛れた風情の建物に入ったパブみたいなところでした。中に入ると二つのダンスステージがあり、重低音の嵐がびりー君の鼓膜をびりびり震わせたと言います。


 びりー君は、ダンスなんか学校の体育の授業でやったフォークダンスくらいの経験しかないのでうまく踊れるわけがありません。基本がわかればなんとかなると思ってもそれも今は難しいです。「南米はダンスが生活の一部に組み込まれてるから踊りができないと生きてけないな」んて大げさなことを言う人が昔いました。うまく踊れるルイスがうらやましかったと言います。


 オフィス帰りのOLがハイヒールを履いてびりー君たちのそばで踊っていました。ルイスは「明日は休みだからみんな踊りにくるんだ」と言っていたそうです。数人の仲間と楽しそうに、まるで外国映画を見ているような感じがしたそうです。


 ルイスのダンスはいつ見てもチークダンスだったそうです。相手をがっちり確保して振り回しているような印象を受けました。太っているルイスに対して、相手は割合小柄な女性が多かったからなおさらだということです。それに彼のダンスは濃厚なのだそうです。二人の体をまとっている薄い布切れがなければそのまま溶けて行ってしまいそうな・・それだけに見ているものは、二人の間にただならぬ感情を抱いてしまうといったものでした。


 そして、このとき、たまたまルイスの近所の人も踊りに来ていて、二人のチークダンスにびりー君と同じ印象を受けたらしく、そのことがルイスの奥さんの耳に入ってしまったということでした。