席に戻って、あれもあの少年には大事な日銭稼ぎの手段だったんだろうと思うとびりー君は後悔したということです。だけどあれは断ったほうが、あの少年のためになったろうと自分を慰めたそうです。フリアカで靴磨きの少年にしつこく付きまとわれ、びりー君とルイスとロッシの3人が根負けをして彼に靴を磨かせてあげた時の事を思い出しました。少年は日本で言えば小学校5~6年ぐらいの小さな子供だったそうです。しかし、彼の手際は見事なものでした。ほこりまみれの靴がピカピカになって、どうしてもっと早く靴を磨いてもらわなかったんだろうと思ったくらいだったそうです。


 体重計で人の体重を測ってお金を稼ぐのもいいだろうが。そんな事ばかりしていたらあの靴磨き少年ほどの技術も身に付かない。その少年も同じくらいの年なのに。そうびりー君は感じたそうです。


 靴磨きを人にさせるというのは贅沢趣味みたいで、びりー君は断っていたそうです。しかし、靴磨きで日銭を稼いでいる少年にしてみればそうではないでしょう。日本に帰ってきて、びりー君は、近所のペルー人に、「君も小さいころ靴磨きをやってたの?」と聞いたら「ウン、ヤッテタ。クツキレイニナル」と言っていたそうです。びりー君は「彼は、僕なら整備工場に出すというくらいの自動車の不具合の修理調整でも、自分でやってしまうからすごい」と言っていました。


 ルイスの家に帰ってしばらくすると、びりー君は、ルイスの家の小さな通りを隔てた向かいにある2件目の彼の家に入れてもらったということです。家を3件所有しているというのはペルーでは資産家です。「友達に家を貸しているが使っているのは1部だけだから誰も使っていないこの部屋を自分の部屋だと思って使ってくれ」とびりー君に貸し与えてくれたそうです。


この部屋の出口の所にはトイレがあるということでした。「思う存分使ってくれ」とのことだったそうです。「君の体調のことをあまり気にかけないで申し訳なかった」と気を使ってくれました。


 トイレはバスルームにありました。あちらでは標準的な作りだったと思うということです。あまり清潔な感じはしなかったそうです。誰も使っておらず放置されていたからでしょうか。実はこの時に自分の排泄物はこうやって流すんだと、バスタブにためてあった水を便器にザァーッと流し込むことを教えてもらったそうです。


 この家も作りかけでした。将来2階建てにするんだそうです。びりー君はアリカに行く期間も含めて4~5日この部屋を使わせてもらったそうです。


 ルイスの家は、玄関の隣に通りに面してショーケースを置いただけの小さなお店を経営していたそうです。彼の奥さんが、普段の仕事としていつも店番をしていました。元スチュワーデスとしてはあまりに地味な仕事です。ルイスは「ペルーの女はだめだ」と言っていたそうです。「どうして?」と聞くと、「みんな結婚すると家庭に入ってしまい何にもしなくなる」と言うことでした。自分の妻に店を経営させているのはそのせいかなと思ったそうです。


 ルイスは日本でびりー君の家は店をやっていることは知っています。大きさとしてはコンビニ程度の広さの店ですが。アパートも併設されていて、ルイスの家の家業と重なってるなと感じたそうです。規模は若干違いますが。びりー君が「僕が子供だった頃も最初は僕の家の店もこんな感じだったよ」と言うとルイスは素直に喜んでくれたということです。


 尤も、のちにそれ以上に大きくなったのは、父親が空軍将校ではなく、いつも家にいて、母と力を合わせてくれたおかげだが。ふと、そうした思いにとらわれて、この店の行く末が案ぜられたそうです。