確かに、彼のような仕事をしている人が、亡命期間中、日本のような国に働きに行くことを自由に認めたら、何らかの理由をこじつけてアメリカに亡命し、さらに第三国に出稼ぎに行くという人が続出し、国を守る人がいなくなってしまうことも考えられるでしょう。
国を守るために頼れるものが、彼らの忠誠心だけと言うのも心細い話です。
だから、亡命中も、自国で働いている他の軍人パイロットと同じように、法律的経済的に縛っておく必要があるのでしょう。
びりー君には、彼が空軍将校でありながら、日本にきて働いていた理由が、ようやくわかってきました。
「 じゃ、どうやって出てきたの?」と、びりー君は聞きました。
するとルイスは、「女房が、一生懸命、自分を釈放するように、当局に運動してくれたんだ」と教えてくれたそうです。
もとより、彼の友達も、みんな協力してくれたといいます。国を守ってきたヒーローが、国のせいで経済的に窮するなんておかしな話だと、みんな憤ったのでしょう。
でも、待てよ・・と、びりー君は思ったそうです。
ルイスと一緒に旅行して、僕は、危なくないか?
ルイスは、「ダイジョウブ、ダイジョウブ」と言ってくれました。危なくなったら守ってくれるのか?と思っていると、そういうつもりではなくて、「今は、もうゲリラの活動は無くなって、平和になった」と言うことだそうです。
ここまで聞いて、ふと気が付いたら、もう明け方の5時近くになってしまったそうです。高橋君は、その日1時に飛行機に乗らなければいけません。皆ですぐ寝ることにしたそうです。
日本にいる時、ルイスが、よく「ぜひ、ペルーの自分の家へ来て、自分の女房、コドモ、新しく建てた家を見てくれ、庭にプールがあり、馬も買ってるんだ。ミラージュにも乗せてやるよ」と言ってくれていたそうです。
「君は空軍パイロットだろう?君がテロリストに狙われたら、僕も危ないじゃないか」と、びりー君は冗談半分に応じていました。しかし、それが、まさか本当の事だったとは思わなかったそうです。
ルイスも、内心ギョッとしていたかもしれません。
プールがあり、馬も飼っているんだというのは、彼一流の冗談だったそうです。
いたのは、食用のパト(カモ)とか、アヒルとか、オウムとか、あとは名前のわからないきれいな鳥だったそうです。皆、放し飼いにされていました。
「ミラージュにも乗せてやるよ」と言ってくれましたが、それは、ひそかに期待していたびりー君が浅はかだったようです。「危ないから嫌だ」と言うのは口だけだったそうです。