「君は、日本にきてどのくらいになるの?」
このとき、みんなの輪の中にいた女の子に、びりー君は、聞いたそうです。名前は、ロサと言うそうで、美しく、ぞくっとするような澄んだ瞳をしていたそうです。
でも、日本語はうまくありませんでした。
「オチョ アニョース(8年よ)」と教えてくれました。
ペルー人の中にも、びりー君に負けないくらい日本語の上手な人もいます。例えば、背の低いリカルドおじさんです。試しにリカルドおじさんにも、何年日本にいるのか聞いてみました。「トレス アニョース(3年)」と答えてくれました。
そして、ロサに向き直り、「ふーん、8年か。君は8年もいるのに、日本語はほとんど話せない。君は本当にバカだねえ。(エス ムイ トンタ)と冗談で言うと、彼女は、プイッと膨れる真似をしたそうです。
でも、それは本気ではありませんから、間髪を入れず、彼女に、ブローマ(冗談だよ)と伝えるのは忘れませんでした。すると、彼女は、びりー君に優しく微笑んでくれたそうです。
ところが、「今、彼はなんと言ったんだ?」と、彼女の隣のペルー人に、その向こうのペルー人が、そっと聞くのに、びりー君は気が付きました。そして彼は教えてやっていました。
すると、その向こうのペルー人も、自分もそのことを知りたくて、最初に質問したペルー人にそれを尋ねました。
そんな具合にして、びりー君の言った言葉が、その場に居合わせたペルー人の全体に知れ渡ることになったそうで、その質問が繰り返されるたびに、トンタ、トンタと復唱されることになりました。びりー君も、そのときばかりは焦ったそうです。
おい、おい、僕は冗談で言ったんだよおと泣きたくなったと言います。
ロサには彼氏がいるのを、びりー君は、知っていました。それが、ちょっぴり残念だったというのが、びりー君の言葉です。
楽しい思い出話に花が咲きました。でも、正直言うと彼らの会話は、ほとんどびりー君には聞き取れなかったと言います。わかるところもあるにはあって、なんのことについての話だというところまではわかりましたが、会話の内容まではわからず、時々誰かが 解説してくれるのを待たないといけなかったそうです。
夜が更けました。ついに、お別れの時が来たようです。びりー君は、こんなにつらい別れをしたことがなかったと言います。それでも、最後のお別れの言葉は欠かせません。
Ya, vuervo. Me Levanto tarde manana. Hasta la vista. adios.(もう戻らなきゃ。朝遅いから、もうお別れの挨拶はできない。だからここで言っておくよ。またいつか、会える時までさようなら。)
すると、びりー君には、彼の巨体が一瞬こわばるのがわかりました。
ルイス、ペルーに帰っても元気でな!心の中でそう叫んでびりー君はルイスの部屋を後にしました。