猿若祭二月大歌舞伎 昼の部 2/10(歌舞伎座) | 晴れ、ときどき観劇。

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中村屋ッ!!!

 

 

 

 

 

 

一、新版歌祭門 野崎村

野崎村のお光は許嫁の久作と今夜祝言を上げことになり、うきうきとなますの準備をしている。そこへ久作が奉公に上がる油屋のお嬢さん、お染が登場。互いに言い交わしていた久作とお染は、一緒になれないなら心中をしようと覚悟。そこへ現れたお光は髪を下ろし、出家を宣言。お染の母・お常の許しも得て、駕籠と船でそれぞれに去っていく久作とお染を見送り、お光は父・久作に取りすがって泣くのであった…。

 

・久松の乳母が久作の妹だった縁で、久作が久松を引き取って・自分の娘と許嫁にして・広い世間を見せるために油屋に奉公に上げたらお店のお嬢さんといい仲になっちゃって・久松は一度は覚悟を決めて野崎村に戻ったのにお嬢さんのほうが熱を上げて追いかけてきて・久作に涙ながら人道を説かれて納得したふりをして心中することにして・結局何の罪もないお光が出家することで丸く収まる、という謎話。

・いや、なので、謎だし久松にもお染にもムカつくし、お光!あんたもなんとか言いなさいよ!!!って感じで、上演される割にはあんまり好きではない作品だったのです……が……

・今まで錚々たる花形役者が演じてきたお光を、鶴松さんが演じるということで、楽しみに見に行って、号泣して終わりました。なんて健気で可愛くて凛として、でも等身大で、愛おしいお光なんだ!!!!!おみっちゃん!俺が幸せにしてやるからな!!!(出家しちゃたよ)

・るんるんした様子で大根を刻む可愛らしさと、お染を見つけてからの「びびびびび~~!」(※喧嘩売ってる)(可愛い)、久松を詰るときに少女のなかに女が見え隠れする塩梅、ふたりの覚悟を知って→解脱したような仏のようなお顔、土手で見送る慈愛の表情と裏腹に数珠を握り締める手!!愛しい背中が見えなくなってストンと表情が抜けて、父親に取りすがって泣く小さい背中……もう全部が良かった、良すぎた。これは出色。鶴松さんあんたすごいよ…!中村屋ッ!!!

 

 

二、釣女

大名と太郎冠者が縁結びの神に妻を得たいと願い、大名は麗しい上臈を、太郎冠者は醜女を釣り上げる。

 

・というだけのストーリーの舞踊なんですがめっちゃ面白い。

・太郎冠者が醜女に迫られてタジタジするのが面白い話で、醜女は大柄な立役がお化けみたいなお化粧をして笑いを取るんですが、まあ現代の価値観ではウームなのですけれども、そもそも「女を(ほんとうに釣り竿で)釣り上げる」話でファンタジーなので、たぶんセーフです。(謎判定)

・太郎冠者は獅童さん。醜女は芝翫さん。

・実はわたくし今月、昼も夜も1列目で見たのです。野崎村は没入感こそあれ静かな話なのですが、二幕で獅童さんのよく通る大声を遮るもののない2メートルくらいの距離で浴びて、痺れました。これが役者の声か!!!一緒に飲んでたら鼓膜破けそうだし居酒屋の屋根が吹っ飛びそうだ。

・松羽目物という狂言っぽい舞踊では表情を大仰に演じる方が多いのだけど、獅童さん最高だったな…。芝翫さんは表情が分からないくらいのお化粧をしていたけど唇をンー♡ってして獅童さんにチューを迫っていてチャーミングだった。

・し、大名萬太郎さんと上臈新悟さんはスンとしていてさすがでした。萬太郎さんは芝翫さんに迫られて笑いながら逃げてたけど(笑)、上臈ちゃんは本当にお人形さんみたいにスンとしていたのでした。

 

 

三、籠釣瓶花街酔醒

佐野の豪農、次郎左衛門は江戸に出てきて吉原を見物していたところ、花魁八ツ橋の微笑みに一目惚れ。吉原に通いつめ、通人としての振る舞いも身に付け、ついには身請けの話をまとめようとするところ、八ツ橋は情夫の繁山栄之丞に唆されて次郎左衛門に愛想尽かし。その場は引き下がって国に戻った次郎左衛門は、四か月後に再び吉原に現れると、妖刀・籠釣瓶を抜いて八ツ橋に斬りかかるのであった。

 

・めちゃくちゃ楽しみにしていた一幕。次郎左衛門@勘九郎さん八ツ橋@七之助さんお二人とも初役のはず。

・でも新しさと既視感が同居するのは、散々見た勘三郎さん×玉三郎さんの型で演じておられるからなのだろうなあ。その型だけど、紛れもなく中村屋ご兄弟でもあって、泣くのも忘れて見入っておりました。

・まずもって上演直前に客電がふっつり落ちるところから怖い。真の闇。そこにバッと浮かび上がる春爛漫の吉原。美しく装われた女の地獄。

・お上りさん丸出しで花道を登場する次郎左衛門、下男治六@橋之助さん。ぼったくられようとしているのを見かねた立花屋長兵衛@歌六さんに仲裁に入ってもらったふたりは、七越@芝のぶさん九重@児太郎さんと花魁道中を見物して大満足、さっさと引き上げようと決めた…ところに…八ツ橋の道中に行き会ってしまう。魂が抜けた風情の次郎左衛門と、それを見て微笑む八ツ橋。

・八ツ橋の微笑みを万座の客席が固唾を飲んで見つめていた、あの静寂。それを受け止めて悠々と微笑んでみせる八ツ橋の天女のごとき美しさ。中村屋ッ!!!!(ここだったと思うけど4、5人いらした大向こうさんの声が完全にハモってて心底理解した)

・そして数か月後、すっかり通人のように振る舞って吉原を訪れる次郎左衛門と、じゃれついてみせる八ツ橋。実は八ツ橋は次郎左衛門を憎からず思っていたんじゃないかと、昔は思っていたのですが。いくらいい人のようであっても、いくら自分を想って大金を落としてくれていても、対等な人間として扱っているわけじゃないんですよね、彼にとって八ツ橋は「売り物」でしかない、相手の心はどうでもいい。八ツ橋としても相手はただの客のひとりで、情はあっても色恋でも愛でもない。

・そんな八ツ橋が想いを捧げた相手が浪人の繫山栄之丞@仁左衛門さまで、素人のときから言い交わした仲で、起請文もやり取りしていて、八ツ橋は情夫(まぶ)と親半(とか言ってるけど、たぶん身寄りをなくした八ツ橋を吉原に売り払った張本人)の二人に寄生されている。栄之丞に迫られて次郎左衛門への愛想尽かしを約束してしまう。

・一番憎ったらしいのは親半の釣鐘権八@松緑さんで、本当に一番に惨殺してほしいくらい憎ったらしかった。

・そして栄之丞は、おっとりした品の良さと、どうしようもなさ、なんでこんな男に惚れてしまったんだろうと思いながらも八ツ橋と「元の・本名の彼女」を繋ぐたった一つのよすがで、でも本当は彼女がそう思い込んでいだけかもしれない、みたいな、塩梅がね~、良かった。

・さすがにちょっと仁左衛門さまにお年を感じてしまったのですが、しかしながら裏地が中むら格子のお浴衣を着て登場されたところからハッとするような美男でした。全盛期の仁左衛門さま栄之丞には、上記の塩梅を考えるまでもなく「そりゃ花魁も仁左衛門さまには狂うよな~~」としか思ってなかった。

・そして万座の愛想尽かし。冗談めかして穏便に済ませようとする次郎左衛門と、宥められれば宥められるほど歯止めが効かなくなって手酷い言葉を投げつける八ツ橋。栄之丞に言われたから仕方なく言っている側面と、実は本心でもある側面があったんだろうなあ。言ってるうちに自分でも考えないようにしていた恨みつらみ、それは次郎左衛門にだけじゃなくお客全てに対して抱いていた憎しみが口からあふれ出たみたいな。そしてそれが本心だったからこそ、次郎左衛門は打ちひしがれた。激昂しなかったのは、商売仲間を前に取り乱せなかったから。通人としての振る舞いが、そういう計算を身に付けさせた。

・この時に橋之助さんは「見る芝居」をしているなあと思いました。治六をよく演じられていた勘九郎さんは、飢えた獣みたいな目で勘三郎さんと玉三郎さんを見ていたから。(よく「勘三郎さん食べられちゃう…」とか冗談で言ってた)あの食い入るような目の結果が、このお芝居なんだろうなあ。中村屋ッ!!!!

・そして数か月後の、茶屋。にこにことやって来て、駄賃を弾んで、人払いをして八ツ橋とふたりきりになる。すっかり穏やかな様子の次郎左衛門に安心してじゃれついてみせる八ツ橋と、最初から彼女を殺す気の次郎左衛門。据わった目で足袋を脱いで座布団の下に隠し(血で足が滑らないように?怖い…)、じゃれつく八ツ橋に表情を消してあの日の怒りをぶつける次郎左衛門。怖すぎて身が竦みました。あれは逃げられない。そして妖刀に引っ張られるようにして八ツ橋を切り捨てる次郎左衛門の、これは勘九郎さんの身体能力の高さがゆえに「田舎の農民が妖刀に操られて見事な太刀筋で斬りかかる」様子が再現されていて怯えながら感動しました。新しい境地。うっかり音を立てたら私も斬りかかられるのではという恐怖。お静かに願います!!!(大向さんに)

・灯りを持って来て異変に気付いた女中を「シー…」って言いながら薙ぎ払うの、本当に斬る気はなかったな、と初めて知ったような気がします。こらこらお静かに、と宙を掻くように手を伸ばしたら、もう斬れていた、死んでいた。「籠釣瓶はよく斬れるな…」怖い!!!!中村屋ッ!!!!

 

 

いや、もう、ヒエーーーーーーーーーーーーーーーー怖いーーーーーーー!!!!と思いながら終わった、新しい籠釣瓶でした。知っているのに、新しい。震えちゃう。また観たい。えへへ実はチケットを増やしたのでもう一度見ます。楽しみすぎる……

 

 

もしお気になられましたら、ぜひ、昼の部。おすすめです。26日まで!歌舞伎座へGO!!!!