平成中村座小倉城公演 夜の部 11/18 | 晴れ、ときどき観劇。

晴れ、ときどき観劇。

30代OLの日常ときどき観劇、たまに旅行

 

 

私的・平成中村座史上ベスト作品賞

 

 

image

 


 
 
 

観ました!
めっっっっっちゃくちゃ面白かった!!!!
 
4年前にも小倉城公演で上演されたという、そして古典だという小笠原騒動。
取り立てて事前情報なしで見たのですが、、、やんやの歓声を送ってしまうくらい面白く楽しい観劇体験でした。
 
あらすじと感想。
 
1幕。豊前、小笠原家の狐狩りのさなか、倹しい身なりの老人が娘に会わせてほしいと懇願している。江戸の茶屋で働いていた娘は小笠原家に奉公に上がったが、それ以来音沙汰がなく、心配した父は江戸から遠路はるばる会いに来ていたのだった。が、娘は密かに内通する犬神兵部@中村勘九郎の手引きで彼の妹お大の方@中村七之助として小笠原豊前守@片岡亀蔵の側室となっていたのだった。野心のため、邪魔な父親を殺すお大。
この日は小笠原家では精進潔斎をすべき日である、と豊前守に進言したのは謹慎中であるはずの家臣小笠原隼人@中村歌之助。お大を怪しんだうえ豊前守の獲物であった白狐を逃した隼人は兵部の手回しにより蟄居となる。監禁中の身でありながら小笠原家の危機を分家に伝えるべく、隼人は昔なじみのお早@虎之介に手紙を託す。
お早が江戸に急ぐ道すがら、「兵部からの命令で手紙を取り戻しに来た、内容を書き変えるそうだ」と告げる岡田良助@中村橋之助に追いつかれる。信用していいのか迷いながら、手紙を託さず来た道を引き返すお早。ところが暗がりに差し掛かったところで良助は正体を現し、お早を刺して手紙を奪う。手紙は兵部の手に渡り、良助は報酬の100両を手に江戸へと落ち延びる。
お早の夫・飛脚の小平治@福之助は暗闇でぶつかった男の袖を引きちぎり、女房殺しの下手人の正体を知る。
 
・町娘だった女が男の野心のために大名の側室となり「嫌な男に肌を許して身ごもったのもお家を乗っ取らんとするお前のため」とか言う……七之助さんが、勘九郎さんに言う…。ありがちな場面なんですけど、兄弟なのに、いや兄弟だから?背徳感というか妙な色っぽさがあって、最序盤で早くも生唾ごくり。七之助さんの妖しい美貌とちょっと安い恋情のバランスが上手すぎるし、それを鷹揚に受け止めて利用する勘九郎さんのおおらかな悪さが良い。いや悪い。悪いのが良い。
・美女に騙されてお家の大事な日に狩りしてルンルンしている亀蔵さんのチャーミングなどうしょもなさも良かったですね。
歌之助からの橋之助からの福之助、そして虎之介。成駒屋だらけ。あまりに大向こうが成駒屋成駒屋言うから、私は何を見に来たんだっけ…?令和成駒屋…?とか思っていた。それにしても四者四様にいい。橋之助さんのハスキーで高めの声もいいし、福之助さんの低めに響く声もいいし、歌之助さんのハスキー低めもいい。ていうか虎之介さんちょっと見ない間にめちゃくちゃ良くなってない!?
白狐のスタイルが良すぎてちょっとツボでした。めちゃくちゃすらっと手足の長い白狐。歌之助さんに「ゆけ」と言われて大急ぎで逃げるモデル体型白狐。スタイリッシュなのに可愛い。
・鶴松くんは隼人の妹役でとても可愛かったですし健気な雰囲気が似合っていたのですが本筋に絡まないのであらすじからは割愛させていただきました。でも大変良かったです。
・主命を果たそうと急ぐお早ちゃん、雨に降られ兵部の家来に追われるところを良助に救われて信じ…ようかどうしようか考え中、みたいな焦らしのやり取りが面白いし、暗がりで提灯を消した良助がお早を惨殺するところの「だんまり」、これが魅せつつもコンパクトにまとまっていて大変良かった。だんまりって長いことが多いじゃないですか。面白いけど長くて退屈……を感じさせない。演出の妙。素晴らしい。
 


2幕。良助の家では女房おかの@坂東新悟がツケを回収に来た炭屋、米屋、酒屋に責め立てられていた。夫が出奔して困窮し、義母、ふたりの子らと病みついたおかのは平謝りするが借金取りたちは容赦しない。…はずが、健気に詫びて自分の身に着けていた着物やかんざしを差し出す幼い娘に絆され、自分たちの着物を置き励まして去っていく。
ほろ酔い気分で帰宅する良助。兵部の手引きで豊かになっているはずだった自宅はあばら家のまま、疲れ果てた様子で出迎えた妻に詰られた良助は憤慨するが、妻と母の言葉に愕然とする。兵部は良助に100両窃盗の罪を着せ、家族の世話をするどころか家を追い出そうとさえしており、また岡田家には毎晩毎夜お早の亡霊があらわれては家族を恨み呪っていたのだった。
良助は妻と離縁し、家族に類が及ばないようにしたうえで兵部の罪を暴くことを決意する。離縁しても手元に残る赤ん坊の息子は餓死寸前、せめてわが手で安らかに送ってやろうと思うものの無邪気に笑いかけられてためらううち、娘が自ら咽喉を突く。ついに決意し息子と苦しむ娘を刺し殺した良助は、奥で様子を伺っていた母と妻が胸を突いていたのに衝撃を受ける。二人は良助の未練となるを良しとせず、命を絶ったのだった。
 
・ほぼ、橋之助さんと新悟さんの幕。あと子役の子!あれは中村屋のお弟子さんのお子さんなのかしら。なんとも健気で可愛らしかった。
・慈悲も情けもなく蚊帳まで取り立てようとしていた借金取りのオジサンたちが、年端もいかない少女に懇篤に詫びられてふにゃふにゃになり、借金を帳消しにした挙句自分の着物を脱いで置いていく…落語のようなやり取りが面白おかしい。
・そこから怪談ものになるのが、本当に欲張りで全部盛りシェフのわがままサラダというか豪華海鮮丼ステーキ乗せというか。結構きちんと四谷怪談並みの見せ場を入れてくれて、短いながらも怪談ものとしても見ごたえがありました。
・酔っぱらった男が帰宅して、今までの勝手を妻と母に詰られ諫められ、罪に加担した男に捨て駒にされていたことを知って改心する。家族を手にかけ、または家族が自死し、自らも命を捨てる覚悟で立ち上がる。これもまた定番の流れでありつつ、定番になるほどの良さを感じさせる場面でした。いいのよ、すごく。
・でも思うんだけどお早ちゃんは良助に憑りつけばいいのに罪もない母・妻子に祟るなんて物の道理が分からない幽霊ですよね。幽霊に道理はない?ごもっとも…
・あとまじで悪いのは良助一人なのに、老母……はともかく、餓死寸前の息子……もともかく、未来ある妻と娘まで死ななきゃいけないってのはあんまりにも歌舞伎だわ。歌舞伎だからいいけど他の作品だったら、っていう議論は無駄なんだったなんせ歌舞伎なんだから。ここは芸歴の長い役者だったらもう少し湿っぽくしたのかな、とも思いますが、良助というのが奴出身で腰の軽い底の浅い男ですから、これくらいのさらっとした感じで良かったと思いました。
・新悟さんの幸薄そうさ、いやいい意味なんですけど(いい意味で幸薄いってなに?)(私が知りたい)、夫が悪い男だと分かっているし言いたいことも山ほどあるんだけど言えずに飲み込んできた女の情念?て言うんですかね。それが良かった。
 
 
3幕。女房の仇を討たんと兵部の周囲を嗅ぎまわる小平治。ある夜、兵部のもとから密書と連判状を盗み出した良助に遭遇し後を追う。良助は兵部の悪事を知り国元から豊前に向かっている小笠原遠江守に直訴するため道程の水車小屋に身を隠すが、追いかけてきた小平治と掴み合いになる。双方死闘の末凶刃に倒れた良助@橋之助は次第を語り、密書と連判状を小平治に託して息絶える。
遠江守の行列を止めた小平治は書状を家来衆に手渡すが、駕籠が狙撃される。小平治は大いに狼狽するが、夢枕に立った白狐の報せで命を狙われていることに気付いていた遠江@中村橋之助は駕籠に身代わりを座らせ、自分は行列に加わっていたのであった。犬神とお大の悪事は露見し、ふたりは捕縛されることとなる。白狐の霊験は入牢していた隼人にも及び、危ういところで救い出される。
犬神とお大は大いに抵抗するが、遠江、隼人、小平治、遠江の諫言で改心した豊前守、また白狐の前に観念するのであった。
 
・もう、次から次へと見どころの嵐。拍手しすぎて手が痛い…あと長時間座り続けて尻も痛い。空腹は忘れた。
・橋之助さんと福之助さんの兄弟立ち回りが、ま~~~遠慮がなくて。若くて充実した肉体の男同士が遠慮会釈なくぶつかり合うと(※実際にぶつかってはいないけど)迫力がすさまじいですね。役者ってガリガリのガリよりちょっとむっちりしているくらいのほうが映えるわ…わたしよりは細いけど…
・舞踊での立ち回りもあれば、大根と人参(の、ぬいぐるみ)を使っての立ち回りもあり。水車小屋に上って高い位置でおっとっと、屋根がひっくり返って滑り台になり、本水で回りだした水車に掴まってぐるんぐるん大回転、水をぶっかけ合い、口に含んで吹きかけ合い。笑 これ兄弟じゃないとちょっと平静では見られないというか人によっては嫌なんじゃござーせんこと?と小姑ババアが顔を出しそうになるのですが、兄弟なのでね。ええ。遠慮なくげらげら笑ってきました。前方席の皆様はしぶきを浴びたことでしょう、あれ一回体験してみたいわ。
・びしょ濡れの汗だくで死んだ良助、が、ものの数分で白塗りのお殿様として再登場。塗りがちょっとムラがあって、耳と後ろ首が塗りそびれてらして、その大急ぎな感じがかえって臨場感があって面白かったり。
・地元のお祭り保存会的な方々が舞台に上がり、祇園太鼓をご披露。セリフも一言おっしゃってたかな。こうして各地の地域振興に貢献して、商店会の絆を深め、協賛金を集めつつ利益を還元する……平成中村屋というパッケージのあまりにも理想的なビジネスモデルに脱帽だよもう。勘三郎さんが作ったけど、完成させているのは息子たちだよ。泣いちゃうよこんなの。
・そして、令和成駒屋平成中村座に返上する、中村屋兄弟大立ち回りですよ。これがもう素晴らしすぎた。もちろん兄弟もだけどふたりを支える一門のみなさまも素晴らしかったからボーナス貰ってね!客席を走り回るのは織り込み済みですが、竹を組んだ梯子を上り(狭いし天井が低い小屋だからこそちょっとの高さでもめちゃくちゃ迫力がある)、横にした梯子のうえに乗った兄弟がムービングステージのように松席の上空を通過する……!勘九郎さんに至っては足が下に出てるから、たぶんお客様の頭上すれすれを通過している……!平成中村座だからこそできる演出すぎる~~~令和成駒屋とか言ってごめんなさい~~中村屋ッッッ!!!!
・場内狭しと駆け回った勘九郎さんが2階のお大尽席に出没してみたり、七之助さんは花道上で海老反りしてみたり。どちらもめちゃくちゃ近くて迫力がすごくて勝手に声が出た。そんなクライマックスに次ぐクライマックスからの、幕が開いてライトアップされた小倉城がドーン!そこに死して怨霊と化した兵部お大祇園太鼓!やんやの喝采。これを喝采というんだ。ヒューヒューとかじゃないの、ぅおおおお!って感じのどよめき、客席全体から感嘆と感動が「思わず声になって漏れた音」なの。たまらなかったな……あの体験は、すごかったな……
・カーテンコール、普段だれよりも謙虚で愛想よく頭を下げる勘九郎さんが、兵部のまんまふんぞり返って客席を睨みつける。笑笑笑 幕が二度目に開いてもふんぞり返っている。会釈ひとつ寄越さないのに、、、素敵よ―――ッ!
・それにしても、カーテンコールの並び順が、センター橋之助さんだったんですよ。実際に主演格だな、とは思ったけど、配役表上は勘九郎さんが一番目なのに、センターを橋之助さんに譲ってたの。それもまたすごいな、と思った。座頭でありつつも主演を譲って、主演を立てて、惜しみなく成長の場を与えて、でも自分たちも美味しいところはちゃっかり持っていく。客席の期待に応えるどころか倍返しする。そのバランス感。将来が見えてるんだろうな……中長期的戦略がさ……。弊社の中期経営計画も考えてくれないかな。
 


・勘三郎さんは今でも一番好きな役者さんだけど、ヨボヨボのジジイになってセリフが飛んで黒衣さんに助けられてるのにやら青年やらを演じて晩節を汚したと書き立てられても「しぶといねえ」「勘九郎より長生きするんじゃない」とか悪口を言いながら見ていたかったけれど、父に翻弄されて楽しそうにおろおろしている兄弟が大好きだったけど、中村屋の当主として頼もしい以外のなにものでもない勘九郎さん、七之助さんと、そんなお二人が作る未来も最高だなと思ったりしたのでした。中村屋と成駒屋の未来は明るいぜ。
 
 
次は昼の部。