AM8:30。
台風18号の直撃により、折から徐行を続けていた電車が蒲田にて遂に止まる。ここに公然の正当性を有した遅刻が成立する。

空は清々しく晴れ渡っているが、風は凄まじい。
僕の最も愛する天気である。

AM8:40。
蒲田のマックに入る。
朝マックというものがこんなに美味しいものだとは知らなかった。マフィンとコーヒーで一服する。

AM8:55。
うんこへの強い欲求を感じ始める。マックのトイレは満杯の様子。もうちょっとゆったりしていたかったが、背に腹は代えられないのでマックを後にする。

AM8:56。
コンビニを見つけるもトイレは清掃中。コンビニを後にする。

AM8:58。
蒲田駅に戻る。戻ると、池上線は運行していることが発覚する。
トイレを見ると長蛇の列となっている。池上線で迂回すれば会社まで行けることになるが、背に腹は代えられない。駅を後にする。

AM9:00。
さっき清掃中だったコンビニに戻る。
うんこへの欲求は渇望へと姿を変え、猛烈なパトスが僕の脳天から爪先までを駆け巡っている。
幸いにも清掃は終わっていた。しかし、うんこの先客がいるらしく、若者が一人トイレの前にならんでいる。

AM9:05。
まあ一人くらいなら待つか、と思い待ち始めてから5分が立つが、まだ最初に入ってたやつが出てこない。パトスは相変わらず全身を駆け巡っているが、ここは辛抱である。

AM9:10。
それでも先客は出てこない。いったい中で何をやっているのだ。

AM9:12。
ようやく先客が出て来る。
いつのまにかコンビニのトイレには長蛇の列ができている。まあ「すいません」と言ってるし、許してあげよう。きっとゲリスであったのに違いない。
僕の前に待っていた若者は念願のうんこにありつくこととなった。

AM9:17。
まだ若者は出てこない。パトスはいつしか妄執へと姿を変え始める。どいつもこいつもうんこにいったいどんだけ時間をかけているのだ。まったくもってうんこの作法がなっていない。ゲリスならまだしも、男なら小便が出終わるまでに大便も済むというくらいでないと本物ではない。

ところで僕のうしろに列んでいる青年の仕草が気になる。彼は妙にモジモジしはじめている。やばいのではないのか。暴発してしまうのではないのか。

AM9:20。
ようやく若者が出てくる。僕は妄執の果てにそれがいつしかうんこへの愛であることに気付き始めていた。やっと君に逢える。ずっと片思いをしていた君に。

AM9:22。
とは言っても後ろに列んでいた彼のことが気掛かりだったので、僕は男子の本領を発揮して2分でトイレを出ることに成功する。スーツを脱いだり着たり尻を拭いたり手を洗ったりを含めてのことなので、実際うんこに要した時間は30秒に満たないのは言うまでもない。これぞうんこの作法である。
列んでいた彼は、僕が出ていくとホッと救われたような顔をしてトイレに入っていった。
またひとり人を救うことができた。

AM9:37。
池上線に乗車する。いつの間にかこんな時間になってしまった。考えてみると、僕がマックでまったりしている間もトイレで真の愛とは何かに気付いた時も破裂寸前の青年の大腸を救った時も池上線は運行していたわけで(うんこだけに)、会社の人にそこを詰問されたら返答のしようがない。

当初は池上線の存在に気付かず、気付いた時にはうんこ的によんどころない状況に陥っていたとしか言いようがないわけで、もはやこれは台風による遅刻なのかうんこによる遅刻なのかわからないのである。

まあ、人生上には白と黒に決着できない問題が数多あるわけで、この問題もそのひとつ、言わばどちらでもあってどちらでもないということが真なのだ。そうだ、仕方がなかったのだ。

AM11:08。
紆余曲折を経て、職場の前にようやくたどり着く。

高い空、強い風、朝マック、そして、うんこ。

非日常の時間が齎していた不思議な安楽はいずこかへ去り、山積する仕事の存在が突如として意識下に現出する。

すなわち、今日は忙しくなるということだ。