俺にとって、お客様は神様ではない。
むしろ限りなく悪魔に近い人間である。
なるべくなら来ないでほしい。ウチの店潰れたってべつにいいから来ないでほしい。
というのも、やつらが大群をなしてやってくると、俺は仕事が終わらんからだ。

俺の早朝コンビニバイトにおける仕事は、大まかに4つである。1つ、揚げ物をする。2つ、検品をする。3つ、値付けをする。4つ、客の相手をする。

なあんだ、そんなもんかよ、と思った貴方。貴方はわかっていない。なあんもわかっていない。もうぜぇんぜん、微塵もわかっていない。


これが、ほんとに大変なのである。


何が大変って、在庫の数が膨大なのだ。

倉庫にウズ高く積み上げられたダンボールやらなんやらの箱の山、実に三十。
それを見ただけで、いや、無理だろ。値付けだけに専念してようやく終わるか終わらないかだろ。という感じの量の在庫である。

勤務は、早朝六時から九時までの三時間。時給は九百円。

その三時間で、俺はそいつらをレジまで運び、揚げ物を揚げつつ検品もしつつ客の相手もしつつ、たった一人で全部に値付けをしなければならない。



おまけにうちの店長は、すぐマジギレを起こすかな~り厄介な人物で、始めてから一ヶ月余りが経ったが、怒鳴られなかったためしがない。当番の度に、ほんのちょ~っとしたことでマジギレされるので、どちらかというと痛みに強いほうであるという噂の弓手師も、いささか心が疲れてしまう次第なのである。

最初の頃なんか、まだなんにもわからないのでその都度店長に聞きに行ってたら、「おめぇよ、ガキじゃねえんだからちょっとは自分で考えてやってみろよ!!!やってから聞きにこい!!!」と怒られたので、なるべく聞かないように自分の勘に頼って働くようにしたら、次の週には「おまえさ、まだどうせなんにもわかんねえんだからその都度俺んとこに聞きにこいよ!!!ったく使えねぇなあ!!!」とマジギレされ、どっちだよ!いぢわる!!おまえなんかうんことか踏んでろ!!という思いをしたものである。


そんなわけなので、早朝、店長とマンツーマンのコンビニで値付け終わんなかったりしたら、「俺なら三十分で終わるぞ。ほんとにおめぇはトロトロトロトロしてるよな!!」とキレられるので、んもぅ小心弓手師はびくびくしながらすげぇ急いで仕事をしているのだ。三時間働いた後には、Tシャツがぐっしょぐしょである。それほど朝っぱらから頑張っているのである。




さて、しかしそんな頑張りを見事に邪魔してくれるのが、お客様の奴らである。
奴らは自分を神だと思い込んだ悪魔である。

次から次へとやってきては、俺の仕事を邪魔するのを楽しんでいるかのようだ。


いや、もちろんお客様のお相手も俺の大事な仕事だし、大半のお客様は普通の、一般常識をしっかりと備えた方々なので、俺も別に文句はない。
しかし、三時間レジにいれば、その間に五人くらいは、ブログで顔写真とか公開しておもいっきり汚い言葉とか浴びせかけてやりたいくらいウザい客がやってくるものなのである。


特に最悪なのは、ババア共である。

いや、ほんとにババアは終わっている。




レジで無理難題をふっかけてくるのは、大抵ババアである。コンビニでスーパー並の買い物をしてレジを混雑させるのもいつもババアだし、自分で時間のかかる仕事をさせておいて「早くしてよ」とか言っちゃうのもいっつもババアである。それからわけのわからん商品券を出してくるのもババアだし、よくわからんチケットを買おうとするのもババア、なんやかんや注文をつけて店員を困らせるのも常にババアである。ひどい例としては、混んでるというのにわざわざレジで時間を聞いてくるババアさえいる。そこに時計かかってんだろうがぁぁ!!


俺は新米なので、そういうババア共のイレギュラーな仕事に惑わされ、テンパり、ついには店長に聞きに行き、「お客さん待たせんなよ!!」とマジギレされ、ババアに「早くしてよ」と言われ、その上その間にレジは混み、次から次へと客が来て、いつの間にやらレジに付きっきり状態となり、その間値付けは長時間中断し、ふと裏を見ると店長は寝ており、ね、寝てるーーー!!うそー俺こんなに忙しいのに寝てるー!!となり、ようやく客が途切れたと思って値付けを再開したらまたすぐババアに宅急便を頼まれ、その手続きをしていたらまたレジが混み始め、また長時間値付けは中断し、ふと裏を見ると店長が寝ており、まだ寝てるーーー!!俺こんなに頑張ってるのにまだ寝てるー!!となり、ようやく値付け再開したらまた客が来て・・・・・。



と、まあそんなエンドレスな苦痛三時間が、俺のバイトである。ちなみに、今まで値付けを完遂出来たのは、たったの三回だけである。たまたま在庫がちょっと少なく、めんどくさい客も少なかった日に修羅の如く手を動かしてガチャガチャ値付けしまくったら、なんとかギリギリ終わったのであった。終わらなかった日は当然、目を覚ました店長に説教をされて帰ってゆくわけである。



いやぁ、お金稼ぐのって、つらいね。苦しいね。


でも、苦痛と逆境こそが人を強くし、挫折こそが人を大きくするんだ。きっとそうだ。


大学に入ってから長らく続いた欝なメンタリティは、はしか週間に悟得したこの信念のおかげでずいぶん楽になった。

今、俺の心は晴れわたる五月の青空のように、澄んでいる。


誰だって、雨に打たれれば冷たい。でも、毎日雨に打たれ続けたら、きっといつの間にかそれを冷たいとは感じなくなっているだろう。それは、きっとその人が強くなったということだろう。

それなら、苦痛は決して無駄じゃない。

俺は強くなっているのだ。まだまだ強くなれるのだ。

ニーチェは言った。「神は死んだ。」と。生とは善悪ではなく、単なる力であり、強弱に過ぎないと。



憂鬱な事ばかりが続いて、日常に歓びを見い出し得ず、人生のままならなさに戸惑い、嘆いている諸君へ。

今、諸君らが苦しんでいるのなら、それは諸君らが強くなっている証だ。そして諸君らがまだ強くなる余地のある証だ。

迷うことなどない。悲しむことなどない。
我等はただ、山頂への一本道を進んでいるだけなのだ。
山頂に立ったとき、我等は眼下に、己の辿ってきた山道を懐かしく眺めるだろう。我等はその時に知るだろう。あのつらい坂道があったからこそ、ここまで来れたのだ、と。


目を上げよ。歩みを止めるな。日本一になる、その日まで。





てかどうでもいいけど、今、美竹涼子見たよ。渋谷駅で。いや、絶対あれ美竹涼子だって。まあ俺そんなに彼女にはお世話になってないけど、男子を代表してお礼を言っておこう。いつもお世話になってます!頑張って下さい!!