今年初めての定時終了だった。

バスに乗り込むも、友人と俺のほかには5人しか乗っていない。

出発まで後20分もある。

いったん外へ出てコーヒーで一服する。

後ろから声を掛けられた。

去年寮で会った51歳の期間工おじさんだ。

確かこのおじさんは車を持ち込んでいたはずだが・・・。

「実はジャスコの駐車場で上司とばったり出会っちゃったんでね・・・車はやっぱりまずいんで連休中に家に置いてきましたよ」

おじさんの職場は連日定時終了で残業が全くないらしい。

寮に着くとおじさんが部屋で一杯やらないか?と誘ってきたので、友人と風呂上りにつまみを持っていった。

部屋にはDVDデッキ、電子レンジ、炊飯器、カセットコンロ、そして電気毛布まであった。

かなりの充実ぶりだ。

「すごいっすねぇ・・・完全武装じゃないですか!」

「いやあ、もう2回目だからね、前に不足したものをそろえただけだよ」

「PCは無いんですか?」

「そんな物使ったことも無いよ、このDVDのリモコンですら覚えきれないのにさ・・・・」

さすがにそこいらは年を感じさせる。

冷蔵庫の中からビールが出るわ出るわ・・・そしてかなり高価な燻製やチーズなども出てきた。

コンロで焼いて食べたらとても旨い!

俺達が持っていったポテチと柿の種はちょっとみすぼらしいか。

酔いの回ったおじさんは俺達を “若いあんちゃん達” と呼ぶが、俺達は2人とも立派な30歳代のおじさんだ。

おじさんは期間工こそ2回目だが、以前は地元の会社に30年も勤めていた。

しかし不況のあおりで倒産し、日雇いバイトとかをしながら生活していた折、期間工募集の広告をみて

面接を受けたそうだ。

前回は名古屋の???(聞き取れなかった)で、1年間勤め、そして去年田原に来た。

独身でしかもまじめに働いているのでさぞかし貯めこんでいると思い聞いてみた。

「実はぜんぜん残っていないんですよ・・・」

「残す家族もいないしね、葬式代だけあればいいでしょ?」

全てギャンブルに使っているそうだ。

部屋に山積みされているスポーツ新聞と競馬新聞がそれを物語っていた。

類は共を呼ぶというが、おじさんは同年代の期間工の友人が何人かいて週末は酒場へ繰り出すのが楽しみらしい。

おじさんはもうまぶたがくっつきそうなので俺達も部屋に帰ることにした。

部屋の隅に名古屋風俗ガイドが置いてあった。