なんでそんなことわかるんだよ。
お前、キャバクラとかクラブとか行かないだろ?
あの二人は見るからに客と店側の関係だぞ。
確かに行ったことないからわかんないな。
三十路を近くに迎える男性の小声での会話だ。
彼女たちの方は互いの笑い声が飛び交っている。
男性が話すことにニイナが甲高い声で笑っている。
時折、店主が二人に入って話題を提供したり、僕らに加わったり、
日下部と仕事の話をしたりで、
彼女が同じ空間にいるのに話すことができないという不思議に
感覚に苛まれていた。
ひとしきり、二人で飲んでいると日下部が
ちょうどカヲリがこの辺で友人と飲んでいるらしく呼ばれてるから
行ってくるというので、一緒にお店を出ようとなった。
店主にお会計を頼む、その際に彼女たちの方を見ると
楽しそうに話してる。
見たくないものを見てしまったと思った。
勘定を済ませ、日下部を先に出口に向かわせた。
後からついていく。ついでに彼女に挨拶をと思ったのだ。
彼女たちに近づこうとしたが、即座に止めた。
男性から見えない、且つ僕に見えるような位置に手を持ってきて
何やらジェスチャーをしている。
ケータイをいじるジェスチャーに見えた。
半信半疑ではあったが、僕は大きくうなずいてお店を後にした。
遅かったな。
外で待ってた日下部にそう言われた。
続けて彼は今から会うんだろ、と聞いてきた。
まだわかんないというのと、例のジェスチャーのことを話した。
日下部はきっと連絡するから待っとけってことなんだろうなと言った。
日下部をカヲリがいるお店の前まで送っていった。
お酒に飲まれるなよ、溺れるなよ。そう言い捨てて店に消えていった。
来るかもわからない連絡を待つために入ったことのないバーに身を置いた。
「帰っちゃった?」
待つ暇もなく、そう来たのだ、ニイナから。