HAKATA PARIS NEWYORK

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本業はファッション、グラフィックなどデザイン関連のクリエイティブディレクター。創る側の視点で今のファッション関連の事情を評論する。マスメディアはもちろん、業界紙誌も扱わないテーマに踏み込む。

 2025年9月4日、イタリア人デザイナーのジョルジオ・アルマーニ氏が91歳で亡くなって1年が経った。同氏の遺言によると、死後12~18カ月以内の2027年3月頃までにグループ株式の15%を売却し、その後3~5年以内に追加で30~54.9%を譲渡するか、または株式公開(IPO)を検討するように指示されている。ところが、米国・イスラエルによるイラン攻撃で中東情勢が混沌し、原油価格の高騰で世界経済の先行きは不透明。それに伴う消費環境の悪化は、ラグジュアリーブランドの売れ行きにも影響を与えており、アルマーニ社の株式売却は2027年3月の期限を超えて遅延する可能性が出てきている。

 

 株式売却は主幹事にロスチャイルドが選任され、手続きが本格化している。ただ、アルマーニ氏が遺言には期限通りに進めなければならない制約はなく、この間に景気が回復せずラグジュアリー市場が低迷して売上げの減少に歯止めがかからなければ、株式の売却や公開はさらにずれ込む可能性もある。株式買収ではLVMH(モエヘネシー・ルイ・ヴィトン)グループがアパレルの他、眼鏡やビューティーのカテゴリーを強化するために単独で狙っていると言われる。また、アパレル企業ではないものの、L’Oréal(ロレアル)がビューティー事業のライセンス権を防衛するために少数株式の取得に関心を示している。EssilorLuxottica(エシロール・ルックスオティカ)も、アイウェアのライセンス契約を守るために少数株式の取得や他社との共同買収案を模索している。両社がアルマーニのライセンスで上げる年間売上げが約20億ユーロ(約3,600億円)に達することを考えると、少数でも株式を保有したいのは山々だろう。

 もっとも、アルマーニ社の魅力は単なるラグジュアリーブランドとしての価値だけにとどまらない。アパレルではジョルジオ・アルマーニ、エンポリオ・アルマーニ、スポーツテイストのEA7、オートクチュールラインのアルマーニ・プリヴェ、ストリートカジュアルのアルマーニ・エクスチェンジと、プライスラインのほぼ全てを網羅している。さらに香水やコスメ、スキンケアといったアルマーニ・ビューティ、家具やテキスタイル、照明、装飾品などを手がけるアルマーニ・カーザ、アルマーニがトータルプロデュースし、ドバイやミラノで展開するアルマーニホテル&リゾート、そして、ギフト向けのアルマーニ・ドルチェ(チョコレート)、ラインセンス生産する時計や眼鏡まで持ち、ライフスタイル合わせた多面的な商材を提供している。売上規模は違うものの、LVMHにも匹敵するカテゴリーを1社で有するのは比類なき価値と言える。まさにアルマーニ帝国と称される所以だ。

 現在、アルマーニ社はジュゼッペ・マルソッチCEOが新たな事業計画を策定中と言われている。同CEOは7月、「創業者のジョルジオ・アルマーニ氏が生み出したグレージュの色合い、柔らかでこしがある生地、ナチュラルショルダーや独特なシルエット。そうしたたエレガントなスタイルやディテールが生み出す着用感は、長期的なビジョンとして忠実であるべきだ」と述べている。一方で、同CEOは、「アルマーニ社として現在は転換期にあり、創業家はグッチの元CEOマルコ・ビッザーリ氏などの新たな取締役と協議を重ねながら、社の経営をいかに安定させていくか熟考中だ」と、明かした。その中では、アルマーニホテル&リゾート開発のために合弁会社を設立する事案も挙がっているという。

 

 では、コンサルタントや投資家はどう見ているのか。彼らはアルマーニのような高級なアパレルほど1~2年でデザインが大きく変わることはなく、売れ行きが鈍化しているという見方が大勢だ。また、混沌とする世界情勢、エネルギー価格の高騰により、消費環境が悪化していることも、アルマーニにとっては逆風と捉えている。一方で、SDGsの流れも相まって廃棄につながる生産体制への批判は高まっている。EU(欧州連合)は2026年7月、大手アパレル企業を対象に売れ残った衣料などの廃棄を禁じるエコデザイン規則(ESPR)を施行した。それに対し、シャネルは廃棄予定の製品や不良品をリユース、リサイクルする仕組みを作り、未販売の商品を循環ルートに戻す体制を構築した。LVMHは、余剰の生地を再販売するノナ・ソースに加え、商品の修理や香水などの詰め替え、古着などの回収を行うリサイクルプロジェクトを広げる。

 

 コンサルタントや投資家は、こうした取り組みこそアルマーニ社にとって活性化になると、見ている。同社がアパレルだけでなく、香水や家具やテキスタイル、時計や眼鏡までのカテゴリーを有しているからだ。言い換えれば、投資家は新規販売でも、循環型ビジネスでも、多面的なカテゴリー構成を生かすべきと判断する傾向がある。消費環境の悪化でアパレルが厳しいからこそ、当面はリユースやリサイクルに注力しながら、景気が回復するのを待つ。美容関連や雑貨のカテゴリーは、値ごろで買いやすいことから、商品作りを強化して更なる成長に繋げていく。ロレアルとエシロール・ルックスオティカは、アルマーニのライセンスで年間約20億ユーロも売り上げている。コンサルタントからも「アパレルが伸び悩む中、消費者が比較的手を出しやすいビューティーやアクセサリーを求める傾向にある。このカテゴリーは今後もアルマーニ社の中で持続的に成長する可能性が大いにある」と、評価する声が出ている。

 

コングロマリット傘下入りで、デザイナー交代は常態化する?

 では、デザイン面、クリエイティビティには変化があるのだろうか。ジョルジオ・アルマーニ氏の死去以降、長年ブランドを支えてきた姪のシルヴァーナ・アルマーニ氏と、同氏の右腕でもあったレオ・デル・オルコ氏が中心となってジョルジオ・アルマーニのデザインを引き継いでいる。シルヴァーナ氏はウィメンズのデザインやオートクチュールのアルマーニ・プリヴェなどを担当し、デル・オルコ氏がメンズコレクション全般を統括する。シルヴァーナ氏は2026年の秋冬ウィメンズコレクションがプレタポルテデビューとなり、2026-27年秋冬オートクチュールコレクション(アルマーニ プリヴェ)を経て、27年夏夏ではデル・オルコ氏とメンズおよびウィメンズクルーズコレクションを合同開催している。

 シルヴァーナ氏の作風はどうか。肩パッドを薄くしたジャケット、身幅が広くゆったりしたブルゾン、生地の特徴を生かした落ち感が絶妙なコートなど、ジョルジオ氏のデザイン遺産を見事に踏襲してみせた。一方で、カラーにサンドベージュが混ざらないグレーやグリーンを加えたり、ジャケットの一部では肩のラインをスクエアやコンケープド気味、ラペルを幅広にするなど、自分らしさも打ち出している。新たにコンストラクティブな要素を加え、ジョルジオ氏の真骨頂であるリラックス感と調和させた点は見事の一言に尽きる。オートクチュールでは、トップ部分を装飾を施した透明な生地で切り替えたり、レースのトリミング処理を行ったり、ざっくり編みのニットにスパンコールをあしらったりと、女性らしいフェミニンさとイブニングドレスの官能美をシンクロさせている。

 

 ジョルジオ氏がジャケットで打ち出してきたソフトな肩のライン。これには地の目(生地を構成している糸の方向や向き)を通っていないものも多く、歪みが出ることも少なくない。そうしたアバウトさは生地の表と裏、芯地のバランスの良さがあるからこそ生まれるもの。それはアルマーニ氏が素材の性質から付属に至るまで特徴を熟知しているから表現できることで、鋭い感性と高い技術の賜物と言える。さらにソフトな生地を使うとことから、肩山に丸みを作っても時間が経つと型崩れしやすくなる。ところが、アルマーニの服では肩山のトップ部分の縫い代を平らに割ってそれを防いでいる。「素材が」の背景には、技があってこそ「素材が生きる」という意味合いもある。批判される方はもっと勉強されるべきかと。シルヴァーナ氏はこうした先代のディテールと技術を受け継ぎながら、肩のラインに新たにスクエアやコンケープドを取り入れるなど、自分らしさを加味している。秋冬物の写真を見る限りでは、一部のジャケットは肩がシャープで身幅も細くなっている。おまけにグレーといったカラリングもあり、一見するとブリティッシュ風だ。新しいアルマーニ像がそこかしこに窺える。

 デル・オルコ氏は、グレージュの色合い、柔らかでありながらこしがある生地、肩パッドを薄くしたナチュラルショルダー、独特なシルエットといったジョルジオ氏のサルトリアリズムを踏襲している。ただ、ジャケットでは身幅をやや細くして、着丈とのバランスを調整したものもある。また、スタンドカラーのジャケットにはボタン留めのパッチポケットをつけるなど、遊び心で自分らしさも加えている。シルヴァーナ氏、デル・オルコ氏ともにアルマーニがずっと見せてきたリラックス感やライトで緩やかなシルエットはそのままのこし、色や生地、フォルム、ディテールでそれぞれの個性を発揮している。まだ、1、2度のコレクションしか経験していないので、両氏ともにアルマーニデザインを大胆に変革するとまでは行かないだろう。ジョルジオ氏のデザインレガシーを引き継ぎつつ、そこかしこで自分らしさを打ち出して、いかに全体を纏めていけるか。今後のクリエーションに期待したい。

 アルマーニ社は2026年9月16日、イタリア人デザイナー、ダリオ・ヴィターレ氏をエンポリオ・アルマーニのクリエイティブディレクターに任命したと、発表した。エンポリオ・アルマーニは、もともとジョルジオ氏がデニム生地を使ったメンズコレクションを試そうと1981年にスタートした。購買力があまりなくカジュアルなスタイルの若い層をメーンターゲットに絞ったものだ。コレクションのどのアイテムもアルマーニスタイルを貫きつつ、価格は低く抑えた。いわゆる、ジョルジオ・アルマーニのセカンドラインである。その後、マーケティングの専門家の反対を押し切って、コレクションを拡大しウィメンズにも参入した。大空に高く舞い上がるのをイメージし、鷲をあしらったブランドマークにした。モード界の常套手段であったイニシャルを入れるかについて、アルマーニ氏は辟易していた。ただ、コピー商品が多く出回っていたこともあり、ロゴマークは必須だった。

 

 ブランドスタートから、45年。当時とは市場も顧客も変わった。消費環境の悪化でラグジュアリーブランドには逆風が吹いている。だからこそ、値頃感のあるエンポリオ・アルマーニの立ち位置はビジネスとして重要になる。ヴィターレ氏は、ジョルジオ・アルマーニのアクセサリー部門のディレクターも兼任する。ダリオ・ヴィターレ氏とはどんなデザイナーなのか。ミュウミュウで約15年間にわたり在籍し、レディ・トゥ・ウェアのデザイン・ディレクターやイメージ部門の責任者を務め、同ブランドの爆発的人気を支えた。2025年3月には、ドナテラ・ヴェルサーチェの後任としてヴェルサーチェのチーフ・クリエイティブ・オフィサーに就任。同年9月デビューの2026年春夏コレクションでは高い評価を受けたが、プラダ・グループによる買収などもあり、わずか数ヶ月で退任した。アルマーニへの移籍により、真の実力が試されることになる。クリエイティブ&デザイン部門も陣容が固まり、これから2027年に向け新生アルマーニがスタートすることになる。

 

 三氏とも、イタリアの服作りを学んでいる。だから、仕立ての良さとそれを生み出す良い素材の両方を大切にしていきながら、自分流のラインもアルマーニに取り入れていくと思われる。イタリアのブランドは、時代とともにロゴマークを一新させていく傾向がある。トムフォードがディレクターに就任した当時のグッチがそうだ。一方、アルマーニブランドの歴史を通じて大きなリブランディングはほとんどされておらず、基本となるデザインを維持し続けている。ジョルジオ氏がブランドで貫いてきた思想や創作性を引き継ぎながら、いかに新しいものを生み出していくか。コングロマリットの傘下入りとなれば、デザイナー交代も避けられなくなるが、どこまでを守り、どこからを変えていくのかというスタンスはデザイナーに共通して求められる。その意味で、新生アルマーニには大いに期待したい。

 

 ※当コラムは2010年ごろからGoo Blogにて執筆をスタートしました。ですが、25年11月18日でサイトのサービスが終了し、Amebaへの引越しを致しました。過去14年にわたる月別アーカイブは、2011年から併載していますlivedoorブログ(http://blog.livedoor.jp/monpagris-hakata/)でご覧いただけます。