著作権や意匠権を侵害したとする事例、明らかに不正競争防止法に違反した模倣商品。昨今ではSNSを利用した詐欺広告や人気商品をコピーした紛い物が溢れている。ただ、問題の商品について裁判で争うケースになると、争点がなんなのか、裁判所はどう判断するのか、過去の判例など、注目される点も少なくない。「有名デザイナーがデザインした子ども用の椅子に著作権が認められるか」もそうだ。訴訟はベビー用品メーカー、ストッケ(ノルウェー)が販売する子供用椅子「TRIPP TRAPP」と類似した商品を、乳幼児向けの家具などを製造する「Noz」(兵庫県川西市)が販売し、著作権を侵害したとして起こしたもの。TRIPP TRAPPはノルウェーの家具デザイナー、ピーター・オプスヴィック氏のデザインで、子供の成長に合わせて座面と足を乗せる板の高さなどが調整できる仕組みになっている。
一審の東京地裁は2023年9月、デザイン性の高い実用品については「それが独立して美術鑑賞の対象となる創造性を備えている場合は著作物に該当する」との判断の枠組みを示した。だが、原告の製品に著作権が認められるとは判断せず、両製品は明らかに形態が異なるなどとして、請求を認めなかった。二審の知財高裁は24年9月、実用品のデザインに著作権を認めると、企業側が許諾を得なければならないケースが増えて権利関係が複雑になる。そのため、デザインに創造性が認められても「意匠法」による保護で十分とした。例外的に著作物に該当する例も示した。それは形状が実用的な機能を離れて、独立した美的鑑賞目的となる部分を含むか、またはその実用品がもっぱら美的鑑賞の目的で制作されたものと認められる場合に限るというもの。高裁はストッケ社のTRIPP TRAPPは前出の条件を満たさないと判断した。
そこで、気になるのが著作権と意匠権の違い。まず著作権は著作権法で護られている。では、著作物とは何か。「思想または感情を創作的に表現したもので、文芸、学術、美術または音楽の範囲内に属するもの」で、著作権法はこれらの権利を保護する。権利の保護については著作権者=制作者自身が申請する必要はなく、死後70年まで担保される。意匠権は意匠法で保護される。意匠とは「物の形状や模様、色彩などのデザイン」になる。こちらは意匠権者による登録が必要で、出願すれば原則25年で保護の期間は終了する。2026年3月16日には両当事者の意見を聞く上告審の弁論が開かれ、原告のストッケ社側は「TRIPP TRAPPにはデザイナーの個性が発揮されているなどとして美術品などと同様に著作権が認められる」と主張。一方、Noz社側は「意匠権との適切な棲み分けを図る見地を考慮し、限定的に理解すべき」と反論した。さて、どちらの主張が認められるのか。最高裁は4月24日に判決を下す。
ところで、デザインは著作権法でどこまで護られるのだろうか。わかりやすのは独創性の高いロゴマークやキャラクター、イラストなど具体的に形になったものは、著作権法で保護されるということだ。例えば、ひと目見たらそれとわかるアップル社のマークやゆるキャラのくまモン、天野喜孝氏のファイナルファンタジーのイラストがそうだ。また、有名画家や彫刻家の美術作品、例えば、「ゴッホのひまわり」とか、「ロダンの考える人」は誰が見てもその人の作品と分かるから、著作権があると言える。それらを丸ごと複製する行為は著作権侵害となる可能性が極めて高い。単に使うための機能、5本指の手袋とか、足がすっぽり入る靴下とか、折りたたみ傘のような使いやすさが重視されるデザインには著作権は存在せず、保護されない。赤バックで白抜きの文字、星型のイヤリングやペンダントヘッドといったデザインにも著作権はないとみていい。
では、著作権の対象とはならないが、デザインの権利を護りたいのであれば、他の法律を適用するしかない。それがデザイン関連の意匠権を保護する意匠法だ。保護対象になるデザインはものの形や模様、色彩になる。具体的な事例を挙げると、キッコーマンの醤油ボトルやスマートフォン画面の操作用の画像、住宅やビルの外観、オフィスや店舗の内装がそうだ。他にはインテリアや家具、キャラクターグッズ、文房具がある。ファッションではTシャツの柄、バッグのデザインが当てはまる。出願して登録が認められれば、25年間は権利が護られるので、コピーされた場合は訴訟にうって出ることが可能だ。また、ブランドのロゴマーク、記号、印といったデザインには「商標権」があり、商標法で保護されるケースもある。こちらも登録する必要があり、存続期間は登録から10年。その後も10年ごとに更新が可能で、半永久的に存続できる。
これ以外のデザインのコピー防止は不正競争防止法で保護される。他社の模倣品の販売や営業秘密の盗用を防ぐ場合に適用できる。他者が不正競争に該当する行為を行なったとなれば、差し止めや損害賠償を請求でき、刑事罰もある。
では、アパレル業界での模倣(デッドコピー)や違法行為はどうなのか。ちょうど、ストッケの訴訟報道を目にした時、マシュスタイルラボ(東京都千代田区)がアートデコ(大阪市)などを相手どった訴訟を思い出した。このケースは、スナイデルやフレイアイディーなどのブランドを企画・製造するマッシュスタイルラボが、アートデコが手掛けるECサイト・GRL(グレイル)および同サイトで販売している商品の製造メーカーGio(大阪市)に対し、商品形態の模倣を理由に差し止めや損害賠償を請求したものだ。マッシュスタイルラボは2026年1月末、アートデコとGioが同社に解決金として総額3億円を支払うことで、和解が成立したと発表。加えてアートデコとGioは、商品形態を模倣した商品の販売を止め、在庫を全て廃棄する。さらに2社は今後、マッシュスタイルラボの商品デザインを模倣しない旨を確約したという。
遵法精神など微塵もないメーカーもある
マッシュスタイルラボがGRLを訴えたケースは過去にもあった。それが不正競争防止法が定める形態模倣違反による刑事告訴だ。2015年6月には、この容疑で当時のGio塚原大輝社長らが大阪府警に逮捕されている。この時も、マッシュスタイルラボはアートデコとGioと「今後は模倣をしない旨の確約」をしていたが、21年の9月に再び模倣されていると察知し、警告書を送付した。マッシュスタイルラボは模倣に当たる31点の商品について販売中止を求めたが、GRL側は他の商品については「GRLが先に企画・販売したとして模倣はしていない」と反論し、販売は継続されたという。
マッシュスタイルラボは、模倣に該当するとした31点のうち、特にデザインが似ていると同社が判断した17点について、同社は2024年9月、不正競争防止法第2条の商品形態の模倣を理由に東京地裁に提訴し、約9億4700万円の損害賠償を請求した。GRLは控訴したが、2商品についてはマッシュスタイルラボより先に販売していたとして逆に提訴。これらも含め、今回の案件とともに和解が成立した。マッシュスタイルラボは一連の訴訟について、模倣品が横行するファッション業界において、当社が模倣品に厳格な姿勢で臨み、法的措置を講じた結果、和解が成立したことは業界の健全な発展にもつながるとコメント。一方、アートデコは今回の件は模倣か模倣でないかについて裁判所の判決が下されたわけではなく、互いの話し合いの中で合意の上に解決したと、司法判断より和解を選択したとする。
アートデコは2024年10月、エモダやムルーアといったブランドを展開するマークスタイラーとの間でも商品形態模倣で訴訟を抱えたが、この時は1400万円を支払うことで和解が成立している。アートデコがマッシュスタイルラボの商品を模倣したケースでは、価格が同社の10分の1程度の2000~3000円前後だったという。この価格帯ならブランドよりもデザインが似通っていれば良いという層には響く。アートデコとしても「安ければ売れる」との判断で、海外の工場で生産したと思われる。だから、収益にもつながったはずで、高額な和解金を払ったとしても少しも堪えていないのではないか。不正競争防止法はもちろん、意匠法でも模倣規制には限界があることを知った上で行っているようにも見受けられる。とすれば、明らかに確信犯だ。
実を言うと10年ほど前、筆者の元にも大阪に本社を置くメーカーさんの九州地区担当者から相談があった。その時届いたメールの原文が以下である。「○○のネット販売店が、新規立ち上げで中国人向けのレディースブランドを立ち上げようとしています。そこの生産管理は僕がやる予定にしているのですが、企画をどうしようかと思っています。(中略)どこか適当な会社をご存じないでしょうか?対象ブランドはスナイデルっぽい感じになると思います。2ヶ月に1回程度の量産でまずは10~15型ぐらいでアウター中心で9月店頭を目指す予定です。いかがでしょうか?」
「スナイデルっぽい感じ」との内容をみた時、すぐに一連の模倣問題が頭をよぎったので、その懸念を担当者に伝えると、「GRLですね、うちの取引先でもありました(笑)ただ、スナイデルにしたいわけではなく、http://xxxxxxx.shop-pro.jp、中国人が日本で立ち上げて、結構売っているサイトでここに卸したいのが、まずはメインのようです」との応えが返ってきた。ODMのサプライヤーを探しているようだった。もちろん、筆者は上質の素材を使用し、価格もそれなりに高いキャリア系のコンテンポラリーしか経験がない。現在も仕事で付き合いのあるメーカーさんは同系統のところばかりだ。ヤング系でチープな商品、しかも中国人が対象はまったく経験がないし畑違いなので、この時は丁重にお断りした。
振り返ってみると、やはりヤングテイストの人気ブランドは、デッドコピーのターゲットになりやすいということだ。本家メーカーもいろんな対策はとっていると思うが、現状の著作権法や意匠法、不正競争防止法では模倣から保護するのは限界があると言わざるを得ない。また、ファッションには流行があるので、一つ一つのアイテムを権利化する必要がない、あるいは対費用で権利化しにくいということがある。シャネルはかつて自らのスーツがコピーされることを成功の証として容認し、むしろ流行を広めるプロモーション手段とした。そうした土壌がデッドコピーを生む環境になっていることもあるだろう。ただ、シャネルスーツのように独自のツイード素材を使い、襟やボタンの形、ポケットの配置など、創作された特徴的な外観デザインは、登録されていれば意匠権で保護されるのも確かだ。
ファッションアイテム自体のデザインは変わるとしても、定番デザインのパターンや柄(模様)についてどのように権利化すれば保護できるかは、企画するメーカー側が検討していく必要がある。意匠権は登録から25年で権利が消滅する。だから、ブランドの商標登録を重視してロゴマークや特徴的なデザインを立体商標として登録することで、長期的にブランドを保護していくことも考えるべきだ。一方、中国発のウルトラファストファッションSHEINは、AI技術を駆使したリアルタイム・ファッションという独自のサプライチェーンシステムを構築し、商品の企画から製造、販売までに活用している。おそらく従来にない超高速、少量多品種、低在庫、低価格での生産を実行しているため、有名ブランドのデザインが模倣されたにしても、発覚する前に次の商品にすり替わっているはずだ。中国企業は所詮、売れればいい、パクられる方がバカなのだというスタンス。デッドコピーに罪の意識など微塵もないだろう。
今後も模倣や違法行為はいたちごっこが続くと思う。アパレルメーカーやサプライヤーなどが確信犯的にデッドコピーを連続して行うのであれば、損害賠償だけでなく刑事罰、特に厳罰を課さなければならないのかもしれない。その事業者が大阪エリアに集中し、中国と関係があるのは偶然だろうか。法規制を強化したとしても、民度までは争えない。それがいちばんの課題ではあるのだが。
※当コラムは2010年ごろからGoo Blogにて執筆をスタートしました。ですが、25年11月18日でサイトのサービスが終了し、Amebaへの引越しを致しました。過去14年にわたる月別アーカイブは、2011年から併載していますlivedoorブログ(http://blog.livedoor.jp/monpagris-hakata/)でご覧いただけます。




